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神戸大学 研究Discovery Saga
2025年12月6日

深層学習で物理シミュレーションの精度を大幅に向上させるAIを開発エネルギー保存則・散逸則を守り、高性能化・高速化を実現

エネルギー保存則・散逸則を守り、高性能化・高速化を実現

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
科学技術計算/AI/スーパーコンピュータ/深層学習/人工知能(AI)/幾何学/場の理論/数理科学/カオス/保存則/理論解析/シミュレーション/モデリング/航空機/自動車/スマートフォン
2025.12.05数物系科学
計算科学
シミュレーション
AI
物理法則

神戸大学大学院理学研究科の谷口隆晴教授、徐百歌さん(博士課程後期課程)、瀋翀さん(博士課程前期課程)、ノルウェー科学技術大学のOwren教授、Celledoni教授らの研究グループは、データからエネルギー保存則などの物理法則を守る物理シミュレーション手法を発見するAIの開発に成功しました。
物理シミュレーションは気象予測や航空機や自動車、スマートフォンなどの製品開発で欠かせない技術となっています。また、近年のAI技術の発達を受けて、AIを利用した高速化技術も現れつつあります。一方、AIを利用した方法は物理法則に忠実とは限らないため、エネルギー保存則などの物理法則が成り立たず、予測結果は現実にはあり得ないようなものとなってしまうかもしれません。その結果、将来の天気や開発された製品の性能は、シミュレーションで予測されたものと全く違うものとなってしまう可能性があります。
新たに開発された方法では、AIを利用することにより予測した現象に合わせてシミュレーション方法がオーダーメイドで設計されます。その際、エネルギー保存則などの物理法則を必ず守るように設計されるため、今後、この方法を使うことで、従来の方法に比べて信頼性の高い予測が高速に可能となると期待されます。
この研究成果は、人工知能技術に関するトップ会議「The Thirty-Ninth Annual Conference on Neural Information Processing Systems(NuerIPS2025)」で、12月4日(米国中部時間)に発表されました。


本研究成果の概要図

ポイント

製品開発や物理現象の解明のために物理シミュレーションは広く行われているが、膨大な計算が必要であったり、一般に、エネルギー保存則などの物理法則が厳密には成り立たないなどの問題があった。また、従来は専門家が設計しており、高度化が困難であった。
本研究では、エネルギー保存則などの物理法則を守る物理シミュレーション方法を発見する深層学習技術を開発した。
これによって、シミュレーションしたい物理現象に合わせてオーダーメイドで高性能・高速・高信頼性をもつシミュレーション手法の開発が可能になると期待される。

研究の背景

自動車や航空機、スマートフォンなどをはじめとする様々な製品の開発においては、スーパーコンピューターなどを利用した物理シミュレーションによる性能の評価が欠かせません。物理シミュレーションのための方法の多くは汎用的な方法として設計されており、どのような問題に対してもそれなりの性能が出せる一方で、エネルギー保存則など、対象となる物理現象の性質が失われてしまうことがありました。一方、エネルギー保存則などの性質が失われないように物理シミュレーション手法を設計することもできますが、一般には設計が難しく、シミュレーションしたい物理現象に合わせて最適な方法を設計することは困難でした。

研究の内容

本研究では、エネルギー保存則などの性質が失われない物理シミュレーション手法を発見する深層学習手法を開発しました。この方法を利用すると、エネルギー保存則などを守りつつ、シミュレーションの対象である現象に合わせて、オーダーメイドで最適な物理シミュレーション手法を作成することができます。
このように作成された方法は、人が手で設計することが困難な高精度かつ高速なものとなり得ます。また、物理法則を保たない方法は、長時間先の状況を予測しようとすると、エネルギーが不自然に増加してしまって予測結果が破綻してしまうことがあります。ですが、本手法では、そのようなことが起こらないため、現象の長期的な予測も可能となります。その他、カオス※1的な挙動を示す現象に対しても高精度な予測が可能となることを示唆する実験結果も得られました。

今後の展開

自動車や計算機などの製品開発や、気象予測や天文などの物理現象の解明のために、様々な分野で物理シミュレーションは行われていますが、通常、物理シミュレーションには膨大な計算が必要となります。今回の方法は、現象に合わせて最適な物理シミュレーション手法を発見・設計することで、シミュレーションを高速化することに役立ちます。特に、人工知能が見つけた物理シミュレーション手法は信頼性に問題があると考えられることが多いですが、今回の方法では、必ずエネルギー保存則などに忠実な方法が発見されますので、信頼性の高い方法が開発可能です。本手法を利用すれば、より少ない計算で、精度が高く、信頼性の高い予測が可能となると期待されます。これは、自動車やスマートフォンなどの新製品の開発期間の短縮や、長期間の気象予測の高精化などにつながります。

用語解説

※1カオス

一定の法則に従って規則的に動いているのにもかかわらず、ほとんどランダムに見えるほど複雑な挙動をする物理現象。予測が非常に困難。

謝辞

本研究は、以下の支援を受けて行われました。
・科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST) 研究領域:「数学・数理科学と情報科学の連携・融合による情報活用基盤の創出と社会課題解決に向けた展開」研究課題名:「幾何学的離散力学を核とする構造保存的システムモデリング・シミュレーション基 盤」(JPMJCR1914)
・科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST) 研究領域:「予測・制御のための数理科学的基盤の創出」研究課題名:「幾何学的古典場の理論と無限次元データ科学の連携による作用素学習」(JPMJCR24Q5)
・科学技術振興機構(JST)先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)プログラム「次世代のためのASPIRE」研究課題名:「深層科学技術計算:数理科学を基盤とする物理構造と深層学習の融合」 (JPMJAP2329)
・科学研究費補助金 基盤研究C 研究課題名「保存則・散逸則を考慮した Physics-Informed Neural Networksの理論解析」(25K15148)

論文情報

タイトル

“UEPI: Universal Energy-Behavior-Preserving Integrators for Energy Conservative/Dissipative Differential Equations”

DOI

未定

著者

Elena Celledoni, Brynjulf Owren, Chong Shen, Baige Xu, Takaharu Yaguchi

掲載誌

Advances in Neural Information Processing Systems 38 (NeurIPS 2025)

研究者


谷口 隆晴
教授

理学研究科



理学研究科