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東京科学大学 研究Discovery Saga
2025年12月4日

レーザで描くフォノニックナノ構造による半導体サーマルマネジメント

ナノ構造を高速・低環境負荷で作製、実用化の加速に期待

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
高性能・省エネルギーな電子機器や量子デバイスの実現に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学化学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
スループット/コンピューティング/最適化/パルス/モンテカルロシミュレーション/自己組織/エッチング/フォノンエンジニアリング/フォノン輸送/加工速度/生産技術/熱電変換材料/ドライエッチング/フォノン/酸化膜/量子デバイス/省エネ/ボトルネック/マネジメント/熱電変換/MEMS/イオンビーム/シミュレーション/シリコン/センシング/ナノメートル/ナノ加工/ナノ構造/フェムト秒/環境負荷/極低温/省エネルギー/電子ビーム/電子顕微鏡/熱工学/熱伝導/熱伝導率/熱輸送/半導体/微細加工/表面粗さ/エネルギー変換/表面構造/SPECT/スマートフォン

2025年12月4日 公開

ポイント

伝熱制御特性を持つフォノニックナノ構造を従来手法より1,000倍以上高速に作製。
サーモリフレクタンス法とモンテカルロシミュレーションにより、構造内部での熱輸送メカニズムを解明。
高性能・省エネルギーな電子機器や量子デバイスの実現に期待。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 工学院 機械系の半間大基大学院生、キム・ビョンギ助教、伏信一慶教授と東京大学 生産技術研究所の野村政宏教授らの研究チームは、熱輸送を制御することができるフォノニックナノ構造[用語1]を、その特性を維持しつつ、約1,000倍以上高速に作成できる手法を提案しました。
熱伝導を担う量子であるフォノン[用語2]
平均自由行程[用語3]よりも小さな周期をもつ構造を用いることで、熱伝導を制御できることが知られています。このような構造をフォノニックナノ構造といいます。従来は
電子ビームリソグラフィ[用語4]などの手法が広く用いられていますが、加工速度が低く、実用化する上での課題となっていました。本研究チームは、
フェムト秒レーザ誘起周期表面構造(fs-LIPSS)[用語5]をシリコン薄膜表面に適用し、従来法に比べて極めて高速に周期構造を形成できることを実証しました。さらに、サーモリフレクタンス法による熱伝導率測定と
モンテカルロシミュレーション[用語6]を組み合わせることで、fs-LIPSS構造が長い平均自由行程のフォノン輸送を効果的に抑制することを明らかにしました。
これまでに、フォノニックナノ構造で薄膜の熱伝導率を制御するという研究は多く報告されてきました。今回の成果は、そのような基礎研究成果を社会実装に繋ぐための重要なマイルストーンであり、高性能コンピューティング、オンチップエネルギー変換、量子デバイスなど、サーマルマネジメントが鍵となる分野への応用が大きく広がると期待されます。
本成果は、12月3日付(現地時間)の「Advanced Functional Materials」誌に掲載されました。


図1. レーザ直接描画法とドライエッチングによるナノ周期構造の形成とフォノンの振る舞い

背景

近年、スマートフォンやPCを始めとする様々な電子機器の小型化、電力密度の増加に伴って、内部での発熱の管理が問題となっており、放熱設計や、捨てられる熱エネルギーの有効利用が重要とされています。このようなサーマルマネジメントにおいて、格子振動の量子であるフォノンの輸送制御が、中核的な課題の一つとなっています。
そこで、フォノニックナノ構造による熱輸送の制御技術が注目されてきましたが、ナノ構造の作製には電子ビームリソグラフィなどの高コストで時間の要する手法が主に用いられ、実用化に向いていないことが大きな課題となっていました。そこで本研究では、フォノニックナノ構造を高スループットで作製することを目的とし、フェムト秒レーザ誘起周期表面構造(fs-LIPSS)を活用してフォノン輸送制御を行いました。

研究成果

本研究では、fs-LIPSSをシリコン薄膜に適用し、溝形のナノ構造を作製しました。その熱伝導特性を測定・解析した結果から以下2つの大きな成果が得られました。
1. 従来比1,000倍以上の製造スループット
レーザ加工条件の最適化によりfs-LIPSSの高均一化を行い、さらに
ドライエッチング[用語7]を施すことで酸化膜を除去、薄膜化に成功しました(図2(a))。図2(b)に、従来の加工法と開発したfs-LIPSSプロセスのスループットの比較を示します[参考文献1-3]。本研究の実験条件では、従来の収束イオンビームの10万倍、電子ビームリソグラフィの1,000倍以上の高速で、ナノ構造を製造できることを実証しました。また、従来の
フォトリソグラフィ[用語8]に比べて微細な構造が作製でき、非常にシンプルな装置で実装できる特徴を持ちます。


図2. フェムト秒レーザ誘起周期表面構造の電子顕微鏡像(a)と加工速度の比較(b)

2. 熱伝導率の低減とメカニズムの解明
本手法により作製したナノ構造は、既存のシリコン薄膜と比較して、熱伝導率が約25%低い(101W/m/K→76W/m/K)ことが分かりました(図3(a))。この値は単に膜を薄くした場合に予測される従来の理論限界(図中κFSで表した破線)を下回るもので、ナノ構造が熱エネルギーの輸送を有効に阻害していることを示唆しています。また、fs-LIPSSの角度によらず、等方的に熱伝導率が減少していることが分かります。フォノンのモンテカルロシミュレーション[参考文献4]を行った結果、fs-LIPSSの表面粗さはレーザ加工によって増大され、そのためフォノンが散乱しやすくなり等方的な熱伝導をもたらしていることが分かりました。図3(b)は累積熱伝導率とフォノンの平均自由行程の関係を示します。周期的な溝構造が熱伝導の主な担い手である「平均自由行程の長いフォノン」の進行を妨げることが分かります。


図3. (a)熱伝導率測定結果(a)、(b)モンテカルロシミュレーションにより見出された累積熱伝導率とフォノンの平均自由行程の関係

社会的インパクト

本研究の成果は、サーマルマネジメントのためのナノ構造製造の実用可能性を大きく高めるものであり、これまで基礎研究段階に留まっていたフォノンエンジニアリングを実社会に適用するための大きな一歩となります。特に、エレクトロニクスの伝熱制御、環境エネルギーハーベストなど、ナノ加工手法がボトルネックとなっていた分野において、応用可能性が高いと期待できます。

今後の展開

今後は、fs-LIPSSにより熱電変換材料の創成し、エレクトロニクスの冷却機構の設計、排熱を用いたセンシング技術に応用展開を図ります。また、量子デバイス・宇宙空間適用に向けた極低温における伝熱機構の解明など、応用しうるデバイス・材料に合わせてプロセスの検討と熱輸送メカニズムの解明および独特なサーマルマネジメント技術の提案を行っていきます。

付記

本研究は、日本学術振興会(25K00035、25K01168、21H04635)、天田財団(AF-2022237-C2)、ヒロセ財団、およびENEOS東燃ゼネラル研究開発奨励奨学財団の支援を受けて行われました。

参考文献

[参考文献1]
P. Li, S. Chen, H. Dai, Z. Yang, Z. Chen, Y. Wang, Y. Chen, W. Peng, W. Shan, and H. Duan, “Recent advances in focused ion beam nanofabrication for nanostructures and devices: fundamentals and applications”,Nanoscale 13, 1529 (2021)
[参考文献2]
M. Altissimo, “E-beam lithography for micro-/nanofabrication, Biomicrofluidics”,Biomicrofluidics 4, 026503 (2010)
[参考文献3]
L. Luo, S. Shan, and X. Li, “A Review: Laser Interference Lithography for Diffraction Gratings and Their Applications in Encoders and Spectrometers”,Sensors 24, 6617 (2024)
[参考文献4]
R. Anufrie and M. Nomura, “Ray phononics: thermal guides, emitters, filters, and shields powered by ballistic phonon transport”,Materials Today Physics 15, 100272 (2020)

用語説明

[用語1]
フォノニックナノ構造:フォノンの伝わり方を制御するために、ナノメートルスケール(髪の毛の太さの10万分の1)で設計された微細な構造のこと。
[用語2]
フォノン:固体の中を熱が伝わるときの、最小単位の振動エネルギーとして扱われるもの。粒としてみなすことができる。
[用語3]
平均自由行程:フォノンなどの粒子が、他の粒子や構造の壁に衝突して散乱するまでの間に、平均してどれくらいの距離を直進できるかを示す長さのこと。
[用語4]
電子ビームリソグラフィ:ナノ構造の作製に用いられる、高精細な描画技術の一つ。数ナノメートル程度のサイズの電子ビームを、電子に反応するレジストに走査してパターンを描画するため非常に精密である。一方で、描画に時間がかかり、一度に処理できる面積が小さいことが課題とされている。
[用語5]
フェムト秒レーザ誘起周期表面構造(fs-LIPSS):フェムト秒とは1,000兆分の1秒という非常に短い時間のこと。この極めて短い時間幅で光パルスを発生させるフェムト秒レーザを物質の表面に照射した際、レーザ光と物質表面の相互作用によって、自己組織的に形成される微細な周期構造のこと。
[用語6]
モンテカルロシミュレーション:乱数を用いて、確率的な現象をシミュレーションする計算手法の一つ。本研究では、フォノンがナノ構造の内部でどのように散乱し、伝わっていくかを追跡(レイトレーシング)し、熱伝導の仕組みを統計的に解析するために用いた。
[用語7]
ドライエッチング:プラズマや反応性ガスを用いて、物質を化学反応や物理的な衝撃で削り取る加工技術。微細加工で最もよく使われる方法の一つ。
[用語8]
フォトリソグラフィ:光を使って感光レジストにパターンを描画し、材料に転写する技術。半導体やMEMSなど、多くの微細加工プロセスの基本となる。

論文情報

掲載誌:
Advanced Functional Materials
タイトル:
Scalable Thermal Engineering via Femtosecond Laser-Direct-Written Phononic Nanostructures
著者:
Hiroki Hamma, Roman Anufriev, Kazuyoshi Fushinobu, Masahiro Nomura, and Byunggi Kim
DOI:
10.1002/adfm.202525269

研究者プロフィール


半間 大基 Hiroki Hamma
東京科学大学 工学院 機械系 修士課程2年
研究分野:熱工学
キム・ビョンギ Byunggi Kim
東京科学大学 工学院機械系 助教
研究分野:熱工学、ナノ構造物理
伏信 一慶 Kazuyoshi Fushinobu
東京科学大学 工学院機械系 教授
研究分野:熱工学、エネルギー工学
アヌフリエフ ロマン Roman Anufriev
東京大学 生産技術研究所 国際研究員
研究分野:熱工学、ナノ構造物理
野村 政宏 Masahiro Nomura
東京大学 生産技術研究所 教授
研究分野:熱工学、ナノ構造物理

関連リンク

プレスリリース レーザで描くフォノニックナノ構造による半導体サーマルマネジメント—ナノ構造を高速・低環境負荷で作製、実用化の加速に期待—(PDF)

キム ビョンギ Kim Byunggi | Science Tokyo研究情報データベース(理工学系)
伏信 一慶 Fushinobu Kazuyoshi | Science Tokyo研究情報データベース(理工学系)
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