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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年11月30日

光で確かめた金結晶表面のスピンの向き

新しい2次元スピン検出方式で、表面電子のスピンの方向を可視化し決定

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
スピンを使って低消費電力で動作するメモリ・論理素子、超高感度センサーなどの実現に寄与することが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
表面状態/軟X線/放射光/極端紫外光/検出器/トポロジカル/ラシュバ効果/メモリ/真空紫外光/材料設計/単結晶/電子状態/スピン/スピントロニクス/センサー/装置開発/低消費電力/半導体/マッピング/ショック
2025-11-18●自然科学系産業科学研究所招へい教授菅 滋正

発表のポイント

スピンが関与する代表的な現象である金(Au(111))表面のラシュバ分裂で外側・内側バンドのスピン向きの帰属が20年近く2通りに割れ、混乱していた。
本研究では光電子運動量顕微鏡(PMM)スピンローテーター2次元スピンフィルターによりスピンの全体像を高効率に取得し、外側は時計回り・内側は反時計回りであることを符号付きで確定した。
本手法は材料横断で整合的な“基準データ”整備を可能にし、スピントロニクス材料設計とデバイス開発を加速する基盤となる。

発表概要

自然科学研究機構分子科学研究所/総合研究大学院大学の松井文彦教授と佐藤祐輔助教、自然科学研究機構分子科学研究所の下ヶ橋龍之介特任助教、萩原健太特任研究員(IMSフェロー)、大阪大学産業科学研究所 菅滋正招へい教授(大阪大学名誉教授)の研究チームは、UVSORの放射光と光電子運動量顕微鏡(PMM)にスピンローテーターと2次元スピンフィルターを組み合わせ、金(Au(111))表面ラシュバ状態のスピン配向を符号付きで決定しました。2次元スピン差分データにより、外側バンドは時計回り、内側バンドは反時計回りであることを直接示し、さらに法線入射の真空紫外光による遷移行列要素から、表面状態の主成分が6s・6pz軌道であることを確認しました。本手法はスピン・軌道に関する基準データの整備を進め、スピントロニクス研究とデバイス開発を後押しします。
本研究成果は、国際学術誌『Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)』に、2025年10月31日付でオンライン掲載されました。



単結晶の金(Au(111))表面における電子のふるまいを表現した模式図

研究の背景

金(Au(111))表面では、最表面に電子がとどまって運動するショックレー表面状態と呼ばれる量子状態が現れます。表面では上下(深さ)方向に強い電場が生じるため、電子の運動方向とスピン(微小な磁石の向き)が結び付くラシュバ効果が起こり、電子の状態はスピンの向きが逆の2本の輪(バンド)に分かれます。しかし、この2本のうち、どちらが“右回り(時計回り)”・どちらが“左回り(反時計回り)”のスピン配置なのかについては、測定法や座標系の取り方の違いなどの混乱から、約20年間にわたり論文間で見解が割れていました。本研究は、この長年の論争を、光電子運動量顕微鏡(Photoelectron Momentum Microscope; PMM)を用いた高効率・高信頼のスピン全体像マッピングで決着させることを目的としました。

研究の内容

本研究では、分子科学研究所・UVSORの放射光ビームライン(BL6Uの軟X線、BL7Uの真空紫外光)とPMMを組み合わせ、(i)スピンローテーター、(ii)2次元スピンフィルター、(iii)多チャンネル検出器を直列に配置した独自の構成で、Au(111)表面状態の“運動量空間の2次元スナップショット”を取得しました。



図1. UVSORシンクロトロン施設における光電子運動量顕微鏡の模式図。材料表面のスピンと軌道を包括的に解析するために、2種類のシンクロトロン光ビームを利用している。
その結果、外側の電子バンドが時計回り、内側の電子バンドが反時計回りというスピン配置であることを、符号(向き)まで含めて明確に実証しました。さらに、法線入射のVUV光で偏光を切り替えて測定すると、電場ベクトルと直交する放出方向では表面状態の信号が消失することを確認しました。これは、表面状態の主成分が金原子の6s・6pz軌道であることを示す「遷移行列要素」に合致し、軌道(電子の波の形)の正体も実験的に特定したことを意味します。これらの結果に基づいて模式図を作成しました。



図2. Au(111)表面に局在した電子状態を解析した。スピンの向きは、軟X線と2次元スピン検出器を組み合わせて決定した。さらに、真空紫外光を正入射配置で用いることで、この電子状態を形作る原子軌道の特性も明らかにできる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回確立した「2次元のスピンと原子軌道の同時マッピング」は、材料ごとに共通指標となる“基準データ”を短時間で得られる実験手法です。スピンの方向や強さを材料設計に活かすスピントロニクス分野では、信頼できる参照データが装置開発や材料探索の効率や理論研究の進展を大きく左右します。本成果により、Au(111)表面のスピン配置に関する混乱が解消され、他の金属・半導体・トポロジカル材料へも同じ測定作法を展開する道筋が整いました。将来的には、スピンを使って低消費電力で動作するメモリ・論理素子、超高感度センサーなどの実現に寄与することが期待されます。

論文情報


掲載誌:Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)
論文タイトル:“Spin and Orbital Polarizations of Au(111) Surface State Determined by Photoelectron Momentum Microscope” (光電子運動量顕微鏡による金(Au(111))表面状態のスピン・軌道偏極方向の決定)
著者:Fumihiko Matsui, Kenta Hagiwara, Yusuke Sato, Ryunosuke Sagehashi, Shigemasa Suga
掲載日:2025年10月31日(オンライン公開)
DOI:10.7566/JPSJ.94.114707
分子科学研究所 極端紫外光研究施設(UVSOR)(IMSプログラム、課題番号:22IMS1218、23IMS1216)