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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年11月30日

\電子の波を自在に操る!/ プラズモンの速さを共振器で制御

プラズモン波束を用いた高忠実度な量子回路を実現する新技術

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
飛行量子ビットの高い忠実度での制御に基づく大規模な量子コンピュータの実現に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学総合理工工学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
アーキテクチャ/人工知能(AI)/離散化/2次元電子系/パルス/閉じ込め/量子コンピュータ/量子情報/量子情報処理/高周波/量子ビット/接合界面/AlGaAs/クーロン相互作用/トランジスタ/プラズモン/共振器/電子回路/量子デバイス/持続可能/持続可能な開発/周波数
2025-11-20●自然科学系理学研究科准教授高田 真太郎

発表のポイント

電荷の集団的な波動であるプラズモン波束の固有状態(速度)を、共振器を用いて精密に制御する新手法の開発に成功。プラズモン波束の周波数分布と共振器の特性に着目し、局所的な制御で広範囲にわたるプラズモンの固有状態制御が実現可能であることを発見。
これまでプラズモン波束の固有状態(速度)は、波束の通り道全体の幅の変更で制御していたが、不純物などの影響で一様な精密制御は困難だった。
新たな固有状態の制御技術は、プラズモン波束を用いた飛行量子ビットの精密制御に貢献。飛行量子ビットの高い忠実度での制御に基づく大規模な量子コンピュータの実現に期待。

発表概要

大阪大学大学院理学研究科物理学専攻の高田真太郎准教授らの研究グループは、産業技術総合研究所 物理計測標準研究部門、量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センターの金子晋久首席研究員、理化学研究所創発物性科学研究センター、及び東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターの山本倫久教授、フランス国立科学研究センター ネール研究所のクリストファー ボイヤレ教授、ボーフム大学 応用固体物理学専攻 アンドレアス ヴィーク 教授と共同で、量子デバイスの基盤としてよく用いられるGaAs/AlGaAsヘテロ接合界面に形成される2次元電子系において、オーミック電極に電圧パルスを与えることで発生するプラズモン波束の固有状態(速度)を、波束の進行方向に対して形成したファブリーペロー共振器を用いて制御する新たな方法を実現しました。電子回路を伝搬するプラズモン波束は、互いに相互作用する電荷の集団であり、その運動の自在な制御の確立は、高い忠実度で動作する量子回路の実現に必要不可欠です。特に、プラズモン波束の伝搬速度を決める固有状態は、回路の幅に依存して決まり、その制御は従来回路幅の変更によって行われてきました(図1上を参照)。しかし、不純物などの影響により、回路全体の幅を一様に制御することは困難であるため、高い忠実度で動作する量子回路の実現に向けては、プラズモン波束の固有状態を高い精度で制御可能な新しい手法の実現が求められていました。
今回、研究グループは、回路上の適切な距離だけ離れた2か所の幅を部分的に狭く制御することで、ファブリーペロー共振器を形成しました。そして、2か所の幅の変調で共振器を制御することで、回路を伝搬するプラズモン波束の固有状態を操れることを実証しました。この手法を活用し、適切な間隔で部分的な幅の精密制御を行うことで、回路の大部分の幅に関係なく、プラズモン波束の固有状態を操ることが可能となり、高い忠実度での固有状態制御が可能となります(図1下を参照)。この技術は、将来的にはプラズモン波束の量子状態制御で実現する大規模量子回路、量子コンピュータの実現につながるものと期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、11月12日(水)(日本時間)に公開されました。



図1. 従来の固有状態制御手法と本研究で開発した新手法の比較。従来の手法では、プラズモン波束(水色)が通過する回路全体の幅を一様に制御していました。回路の幅が広いとプラズモン波束の速度は大きく、幅が狭いと小さくなります。共振器を用いた新たな手法では、部分的に幅を制御することで、回路全体の実効的な幅を狭くする効果を得ることができます。

研究の背景

近年、電子の波としての性質を活かした「飛行量子ビット」が、量子情報処理の新たなアーキテクチャとして注目されています。特に、プラズモン波束と呼ばれる電荷の集団的な波動は、高速な伝搬と高い可干渉性から、飛行量子ビットに基づく大規模な量子コンピュータの実現に向けて研究が進められています。
プラズモン波束を飛行量子ビットとして高い忠実度で動作させるためには、その速度を決める固有状態の制御が必要不可欠です。これまでの研究で、プラズモン波束の固有状態は、回路の幅を変調することで制御できることが示されていました。しかし、実用的な長さの回路では、不純物などの影響で回路幅を一様に制御することは難しく、プラズモン波束を用いた量子回路を実現する上での課題となっていました。

研究の内容

研究グループは、プラズモン波束が伝搬する回路上の、適切な距離だけ離れた2か所に、量子ポイントコンタクト(QPC)と呼ばれる部分的に回路幅を狭窄する構造を作製し、その2か所の幅を部分的に変調するだけで、回路の大部分の幅を保持したまま、プラズモン波束の固有状態が制御できることを示しました(図2を参照)。
この固有状態の制御手法は、2か所の量子ポイントコンタクト間の距離を、プラズモン波束の半値全幅の半分よりも短くなるように設置することで活用が可能となります。これは、2か所の量子ポイントコンタクトの間にファブリーペロー共振器と呼ばれる共振器が形成され、共振器に閉じ込められた電子の進行方向のエネルギーが、連続した値を取れる状態から、一定の間隔で離散化された値しか取ることができなくなったことにより生じた現象として理解することができます。
ここで、プラズモン波束は、クーロン相互作用を介して複数の電荷が結び付くことで形成される集団的な電荷の波動です。そのため、プラズモン波束が伝搬する回路の近傍に別の回路が存在すると、その外部回路中の電子とのクーロン相互作用により、プラズモン波束の一部が別の回路に広がってしまいます。これは着目する回路内でのプラズモン波束の高い忠実度での状態制御を困難にします。研究グループは、上述した共振器を活用したプラズモン波束の固有状態の制御手法は、そのようにプラズモン波束が周囲の回路へ広がってしまうことを抑制する方法としても活用可能であることを示しました。



図2. QPCの閉じ込め幅に依存したプラズモン波束の速度。横軸に沿ったQPCにおける回路幅の部分的な変調によって、プラズモン波束の速度が制御される様子を示している。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、プラズモン波束の固有状態を長距離回路で精密に制御することが可能となるとともに、プラズモン波束の周囲の回路への広がりを防ぐことが可能となります。これらの技術は、プラズモン波束を用いた飛行量子ビットに基づく大規模な量子コンピュータの実現につながることが期待されるとともに、プラズモントランジスタの実現など、古典の高周波回路への応用も期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年11月12日(水)(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Eigenstate control of plasmon wavepackets with electron-channel blockade”
著者名:Shintaro Takada, Giorgos Georgiou, Junliang Wang, Yuma Okazaki, Shuji Nakamura, David Pomaranski, Arne Ludwig, Andreas D. Wieck, Michihisa Yamamoto, Christopher Bäuerle, and Nobu-Hisa Kaneko
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-025-64876-z
なお、本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業 目標6(JPMJMS226B)、JST-ANR CREST事業(JPMJCR1876)、科学研究費(JP24H00047)からの支援の下、行われました。

参考URL

高田真太郎准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2242782cbdfdfc52.html?k=%E9%AB%98%E7%94%B0%E3%80%80%E7%9C%9F%E5%A4%AA%E9%83%8E

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