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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年11月25日

\届かなかった“肺の深部”まで新ルートを開拓!/ ふくらませて進む気管支鏡で肺癌を早期診断

逆転の発想で広がる肺癌診療の未来

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
肺がんの高精度診断と低侵襲治療の両面でのブレークスルーに期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
カテーテル/冠動脈/気管支鏡/合併症/早期診断/内視鏡/画像診断/低侵襲治療/臨床試験/低侵襲/肺がん/臨床研究
2025-11-18●生命科学・医学系大阪大学総長熊ノ郷 淳

発表のポイント

肺の深部までのルートを拓く新技術「バルーン併用気管支鏡送達法」を開発
肺の奥へ進むにつれて気管支は細くなり、従来の内視鏡では物理的に通路が確保できなかったが、バルーンで気管支を拡げるという新しい発想により到達ルートを確保
患者への負担が少ないまま末梢肺へアクセスできるため、肺がんの高精度診断と低侵襲治療の両面でのブレークスルーに期待

発表概要

大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学講座の三宅浩太郎助教、熊ノ郷淳教授らの研究グループは、これまで到達が難しかった肺の奥深く(末梢肺野)にある小さな早期肺癌に、安全に気管支鏡を進めるための新技術「バルーン併用気管支鏡送達法(BDBD法:Balloon Dilatation for Bronchoscope Delivery)」を開発しました。この技術は、小さなバルーン(風船)カテーテルを使って気道を広げ、気管支鏡をこれまで届かなかった末梢領域まで導くという、従来の「気管支鏡を細くする」考えとは逆転の発想による技術です。
ほとんどの肺癌は肺野末梢に発生しますが、肺癌に到達する経路(気管支)は細く、従来の気管支鏡は到達することができませんでした。このため、病変から数センチ離れた位置で内視鏡は止まってしまい、早期肺癌の診断や治療の精度には限界がありました。気管支鏡本体をさらに細くする試みも行われてきましたが、技術的な壁がありました。
本研究グループは発想を転換し、「気管支鏡を細くする」のではなく「逆に気管支を拡げる」という新しい手技(BDBD法)を考案しました。BDBD法では小さなバルーンを気管支の内部で膨らませ、通路を広げることで、気管支鏡を奥まで導きます。これにより、患者への負担を増やさずに早期肺がんの生検精度を向上させるとともに、将来的には内視鏡下での低侵襲治療にも道が開けると期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Thorax」に、11月18日(火)0時5分(日本時間)に公開されました。

研究の背景

肺がんは日本人のがん死亡原因の第1位であり、CT など画像診断の進歩によって、肺の奥深い部分に小さな疑わしい影が見つかる機会が増えています。確定診断には病変自体から組織を採取する「生検」が不可欠ですが、末梢に行くほど気管支が細く枝分かれするため、内視鏡(気管支鏡)を病変近傍まで進めることは困難でした。結果として、標的から数センチ手前で止まった気管支鏡から器具だけを伸ばし、“手探り” で検体を取らざるを得ず、診断精度や治療の確実性に限界がありました。これまで、さらに細い気管支鏡の開発も続けられてきましたが、技術的な壁があり、肺野末梢病変は気管支鏡で到達できないと考えられてきました。

研究の内容

病変まで“あと数センチ”が届かない―その壁を破る発想がBDBD法です。研究チームは、内視鏡を細くするのではなく「気管支をそっと拡げて通り道をつくる」という新しい手技を考案しました。
2017年に豚の肺で試してみたところ、冠動脈用のバルーンカテーテルを気管支の中で膨らませるだけで、気管支鏡が肺の底(胸膜)まで到達できることがわかり、肺の最深部を直接観察することに成功しました。しかし、冠動脈用カテーテルは先端が鋭利であり、肺内での使用には適しません。末梢肺に適したカテーテルを作るために試行錯誤を繰り返し、カテーテル各部の柔軟性、バルーンの直径・長さ・素材、色、X線不透過マーカーといった要素を一つずつ検討し、操作性と安全性を両立させる最終設計にたどり着きました。非臨床試験では従来の方法では届かなかった肺の奥まで気管支鏡が進めることを確認しました。(K Miyake et al. Respiration. 2024;103(4):205.)
このような経緯を経て、世界で初めて患者にBDBD法を実施した臨床研究が今回発表された論文です。本研究には大阪大学、国立病院機構名古屋医療センター、大阪はびきの医療センターが参加しました(jRCT2052220174)。合計22人の患者さんにBDBD法を実施し、気管支鏡は平均2.3分岐末梢へ進むことができました。今回対象となった病変は全例が20mm以下(平均15.3mm)という小さな病変ですが、72%の患者さんで確定診断を得ることができました。22人のうち肺癌の患者さんは18名が含まれていましたが、そのうち17例は生検部位を直視しながら検体採取を行い、14人で肺癌という診断を内視鏡で確定することができました。本研究において重篤な合併症は認めませんでした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

BDBD法により、患者への負担を増やさずに、従来は標的病変から離れた位置から手探りで行っていた生検操作を、病変のより近くまで内視鏡を進めて行えるようになり早期肺がんの生検精度を向上させます。肺の奥深いところまで内視鏡で到達できる方法が確立されたことにより、今後の肺がん診療と内視鏡治療の幅が大きく広がると期待されています。

特記事項

本研究成果は、2025年11月18日(火)0時5分(日本時間)に英国科学誌「Thorax」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Balloon dilatation for bronchoscope delivery: First-in-human trial of a novel technique for peripheral lung field access”
著者名:Kotaro Miyakea, Masahide Okib, Hidekazu Suzukic, Hideo Sakad, Shinji Sasadae, Norio Okamotof, Tatsuya Imabayashig, Yoshihito Kogureb, Takayuki Shiroyamaa, Haruhiko Hirataa, Izumi Nagatomoa,h, Yoshito Takedaa, Atsushi Kumanogoha,i,j
a Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, The University of Osaka, Osaka, Japan
b Department of Respiratory Medicine, National Hospital Organisation Nagoya Medical Centre, Aichi, Japan
c Department of Thoracic Oncology, Osaka Habikino Medical Centre, Osaka, Japan
d Department of Respiratory Medicine, Matsunami General Hospital, Gifu, Japan.
e Department of Respiratory Medicine, The Fraternity Memorial Hospital, Tokyo, Japan
f Department of Medical Oncology, Sakai City Hospital, Osaka, Japan
g Department of Respiratory Medicine, Japanese Red Cross Kyoto Daiichi Hospital, Kyoto, Japan
h Health and Counselling Centre, The University of Osaka, Osaka, Japan.
i Department of Immunopathology, World Premier Institute Immunology Frontier Research Centre (WPI-IFReC), The University of Osaka, Osaka, Japan
j Integrated Frontier Research for Medical Science Division, Institute for Open and Transdisciplinary Research Initiatives, The University of Osaka, Osaka, Japan
DOI:http://dx.doi.org/10.1136/thorax-2025-223218

参考URL

熊ノ郷淳教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/cf8a0b39aebc617f.html
三宅浩太郎助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/f42736582802fb60.html