国産血友病A遺伝子治療を一歩前へ
機能を強化した改変型第VIII因子の開発
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
最適化/持続性/電子顕微鏡/診断法/哺乳類/変異体/アミノ酸配列/エイズ/クライオ電子顕微鏡/エピトープ/血栓/新規治療法/糖鎖修飾/AAV/HLAクラスII/アデノ随伴ウイルス/カニクイザル/ベクター/細胞株/AAVベクター/アミノ酸置換/B細胞/HIV/HLA/アミノ酸/ストレス応答/タンパク質発現/マウス/遺伝子治療/血液/抗原/抗体医薬/再生医療/細胞内輸送/受容体/小胞体/小胞体ストレス/小胞体ストレス応答/副作用/翻訳後修飾/ウイルス/ストレス/遺伝子/遺伝子発現/抗体/小児
2025-11-7●生命科学・医学系工学研究科教授内山 進発表のポイント
様々な動物種の血液凝固第VIII因子のアミノ酸配列を参照し、改変型凝固第VIII因子を開発した。改変型凝固第VIII因子は、高い活性と分泌性能、小胞体ストレス応答を著減するなど、様々な機能が強化された。
カニクイザルを用いた試験において、海外で承認・販売されている遺伝子治療薬Roctavian®の1/30の投与量でも治療域(基準値)を超える第VIII因子の活性上昇を達成した。

改変FVIIIを用いた効果的な血友病A遺伝子治療
発表概要
自治医科大学医学部生化学講座病態生化学部門・遺伝子治療研究センターの柏倉裕志准教授、大森 司教授、奈良県立医科大学小児科学の野上恵嗣教授、東京大学大学院理学系研究科の濡木 理教授、Nezu Life Sciences(現Nezu Biotech GmbH)の Tiago Lopes博士、大阪大学大学院工学研究科の内山 進教授、および予防衛生協会の研究グループは、血液凝固第VIII因子のアミノ酸配列の動物種比較から、凝固因子活性と分泌性能を飛躍的に高め小胞体ストレスを低減する、高機能な改変型血液凝固第VIII因子 (FVIII)の開発に成功しました。この結果、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた既存の血友病A遺伝子治療薬(Roctavian®)よりも、かなり少ないベクター用量で治療を実現し得る可能性が示唆されました。この高機能型FVIIIにより、血友病A遺伝子治療薬の投与量が削減できれば、治療費の削減や副作用リスクの低減に結びつき、実用性と安全性が高まる可能性があります。研究の背景
血友病Aは、血中に存在するFVIII遺伝子の欠損または機能低下による出血性疾患です。治療には、血液中に不足する凝固因子タンパク質の補充やFVIIIの機能を代替する抗体医薬などが使用されています。しかし、重症例では薬剤の投与を生涯継続しなければなりません。最近、AAVベクターを用いた遺伝子治療薬が欧米で承認され、1回の投与で長期間の治療効果が得られることが期待されています。しかし、血友病Aで遺伝子治療は、大量のベクター用量を必要とし、投与1年後をピークに治療効果が徐々に減弱し、長期的治療効果が限定的であることが示唆されています。安全性の担保、およびAAVベクター製造コストを考慮すると、治療に必要な投与量を減らす工夫が重要です。また、血友病A遺伝子治療の効果を持続させるために、その一因と考えられているタンパク質発現による小胞体ストレス誘導を減じることも重要です。血友病B遺伝子治療では、欠損する血液凝固第IX因子の機能を高めたタンパク質が使われています(Padua変異体)。この変異体は血栓症患者から見つかった活性が高い血液凝固第IX因子で、凝固因子機能が通常よりも8倍程度も高いことが知られています。この変異体を用いることで、血友病B遺伝子治療は投与するAAVベクター量を減らすことが可能になりました。そこで本研究では、低ベクター投与量で安定した遺伝子発現による血友病A遺伝子治療を可能にするため、凝固因子活性と分泌性能を強化し、かつ小胞体ストレス応答が低い改変型凝固第VIII因子の開発を試みました。
研究の内容
これまで、ヒト以外の哺乳類ではヒトよりもFVIII活性が高いことが知られていました。本研究では種々の非ヒト哺乳類で保存されているアミノ酸配列に着目し、最終的に36箇所のアミノ酸置換部位を有する改変型FVIIIを同定しました。同定した改変型FVIIIは、野生型に比べて8倍の凝固因子活性と4倍の分泌性能を示しました。また、肝臓細胞株を用いた検討では、細胞内FVIIIの貯留が大幅に減少し、小胞体ストレス応答が顕著に低下しました。
改変型第VIII因子搭載AAVベクターによる血友病Aマウスでの凝固因子の上昇
改変型FVIIIタンパク質の生化学的な解析では、活性化凝固第IX因子との親和性向上による活性増強と、不活性化を示すA2ドメインの解離が促進していることが明らかとなりました。さらに翻訳後修飾の解析において、新たな糖鎖修飾部位が細胞内輸送効率を改善している可能性が考えられました。クライオ電子顕微鏡による構造解析では、FVIIIの全体構造は大きく変わらないものの、非共有結合の増加による活性化第IX因子との結合促進、ならびにドメイン間の不安定化によるA2ドメイン乖離が説明できました。改変体ではアミノ酸置換による抗原性が懸念されます。in silicoにおける主要なヒトHLAクラスIIとの結合解析では、改変による新たな高親和性エピトープは認められず、FVIIIへのインヒビター(中和抗体)が生じたマウスにおけるB細胞受容体レパトア解析からも、改変型FVIIIと野生型FVIIIの免疫原性リスクは同様でした。さらに遺伝子配列を最適化したAAVベクターをカニクイザルに投与したところ、欧米で上市されている遺伝子治療薬Roctavian®の投与量の1/30の用量(2 x 1012 vg/kg)でも基準域を超えるFVIII活性の上昇を認めました。

改変型第VIII因子の生化学的な特徴
研究の重要性
本研究では改変型FVIIIの高活性・高分泌性により、血友病A遺伝子治療が低用量のベクターでも可能となり、副作用リスクを大幅に低減できる可能性があります。また、小胞体ストレス誘導の低減がFVIIIの長期持続発現を実現する可能性があります。本成果は、血友病Aに対するAAVベクター遺伝子治療薬の安全性と持続性を飛躍的に改善し得る技術基盤であり、血友病A遺伝子治療薬の実用に大きな前進をもたらすものです。論文情報
〈雑誌〉Blood
〈題名〉Engineered coagulation factor VIII with enhanced secretion and coagulation potential for hemophilia A gene therapy
〈著者〉Yuji Kashiwakura*, Yuto Nakajima, Kio Horinaka, Tiago J.S. Lopes, Yuma Furuta, Yuki Yamaguchi, Nemekhbayar Baatartsogt, Morisada Hayakawa, Yuko Katakai, Susumu Uchiyama, Osamu Nureki, Keiji Nogami, and Tsukasa Ohmori*
(*責任著者)
〈DOI〉https://doi.org/10.1182/blood.2025028481
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)エイズ対策実用化研究事業「HIV関連病態である血友病の豊かな未来を目指した画期的治療法・診断法の創出」(研究代表者:大森 司)「血友病が抱える課題の解決を目指した新規治療法・診療体制の創出」(研究代表者:大森 司)、AMED再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム(再生・細胞医療・遺伝子治療研究中核拠点)「次世代医療を目指した再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発拠点」(研究分担者:大森 司)、AMED再生医療等実用化基盤整備促進事業「FIH試験用高品質遺伝子治療用ベクター製造」(研究分担者:大森 司)、日本血栓止血学会研究助成(研究代表者:柏倉 裕志)、先進医薬研究振興財団 血液医学研究助成(研究代表者:柏倉 裕志)、などの支援により行われました。
大阪大学 研究