電源不要・高速・高感度―環境DNA濃縮「QuickConc®」の新手法を開発
現場で簡便に濃縮完結。従来法より高感度・短時間で生物多様性調査を加速
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
環境教育/外来種/リアルタイムモニタリング/持続可能/市民参加/持続可能な開発/水環境/シリカ/モニタリング/有機物/ため池/環境保全/生態系/絶滅危惧種/土壌/DNA分析/環境DNA/漁業/生態学/生物多様性/病原体/次世代シーケンサー/カチオン/サーベイランス/非侵襲
2025.10.24
生物系科学環境DNA
生物多様性
生態・環境
株式会社AdvanSentinel(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長 西田都、以下「AdvanSentinel」)および神戸大学大学院人間発達環境学研究科・源利文教授らは、環境水中の核酸を高速・簡便・電源不要で濃縮できる新手法「QuickConc®」を開発しました。本手法は、カチオン性物質によりシリカ表面と核酸の相互作用を高め、ガラス繊維と懸濁固形物を一括捕集する設計で、高濁度水を含む現場での高感度検出を後押しします。これにより、環境保全・漁業管理・外来種監視・病原体生態の解明といった生物多様性モニタリングの現場実装がより現実的になります。
本成果は、2025年10月8日に「Ecology and Evolution」でオンライン公開されました。

ポイント
電源不要、わずか数分で環境DNAを濃縮できる、迅速・簡便かつ現場での濃縮が可能な新技術QuickConc®を開発しました(図1.)。カチオン性物質を利用した独自技術により、従来法と比較して5〜10倍の高いDNA収量を達成し、生物由来の核酸の検出精度を飛躍的に向上させます。
濁った水や有機物が多い水でも使用可能で、これまで調査が難しかった環境でも、安定した高効率なDNA回収を可能にします。
研究の背景
近年、環境中に存在するDNA(環境DNA)注1を分析することで、生物の生息状況を把握する技術が、生態学や環境保全の分野で急速に普及しています。この技術は、生物を直接捕獲することなく、非侵襲的に調査できるため、生態系への影響が少ないという大きな利点があります。しかし、水中に含まれるDNAはごく微量であるため、分析の前段階として、大量の水からDNAを濃縮する作業が不可欠です。従来の濃縮方法では、ポンプなどの専用機材が必要で、特に水が濁っている場合にはフィルターが目詰まりしやすく、作業に長時間を要するなど、多くの課題を抱えていました。研究内容と成果
本研究で開発した「QuickConc®」は、正の電荷を持つカチオン性物質を利用することで、負の電荷を持つDNAをガラス繊維シートへ効率的に吸着させるという新しい原理に基づいています。これにより、電源や特殊な装置を必要とせず、誰でも簡単にDNAを濃縮できます。神戸大学との共同研究において、河川、海水、ため池から採水したサンプルを用いて、従来広く用いられてきた濃縮法(ガラス繊維フィルター法、Sterivexフィルター法)と性能を比較する実験を行いました。その結果、以下の点が明らかになりました。
高いDNA収量
「QuickConc®」は、すべての水環境において、従来法よりも有意に高い量のDNAを回収しました。種特異的なDNAの量を比較したところ、従来法に比べて5倍から10倍の収量が確認されました(図2.)。
優れた網羅的種検出
次世代シーケンサーを用いたメタバーコーディング注2解析の結果、特に河川水において、「QuickConc®」は従来法よりも多くの魚種を検出することに成功しました。これは、より正確な生物多様性モニタリングが可能になることを示唆しています。
安定性と再現性
「QuickConc®」は、検出された生物種の構成のばらつきが他の方法と比較して小さく、より安定した濃縮性能を持つことが示されました。これにより、少ない測定回数でも再現性の高いデータが得られます。

社会的意義・今後の展望
本製品「QuickConc®」は、その迅速性、簡便性、高効率性から、環境DNA分析の社会実装を大きく加速させることが期待されます。生物多様性モニタリングの効率化
より多くのサンプルを短時間で分析可能になり、広域での定点観測やリアルタイムモニタリングが容易になります。
保全活動の促進
絶滅危惧種の生息域調査や、侵略的な外来種の侵入監視などにおいて、迅速なデータ取得がよりタイムリーな保全対策の実施を可能にします。
環境DNA分析の普及促進
専門家でなくても扱える手軽さから、市民参加型の調査や環境教育など、より多くの人々が生物多様性調査に参加するきっかけを創出します。
株式会社AdvanSentinelは、今後も「QuickConc®」シリーズラインナップを拡充し、環境サーベイランス技術のリーディングカンパニーとして、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
用語解説
注1 環境DNA (eDNA)
生物が皮膚、粘液、糞、尿などとして環境中に放出したDNAの総称。水や土壌などの環境サンプルからこれを採取・分析することで、その環境にどのような生物が生息しているかを知ることができる。注2 メタバーコーディング
環境サンプル中に含まれる多種多様な生物由来のDNA断片を、次世代シーケンサーを用いて網羅的に解読し、生物種を特定する技術。生態系全体の生物相を一度に明らかにすることができる。謝辞
本研究は、JICAおよびAMEDによる地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)(住血吸虫症の制圧・排除へ向けた統合的研究開発)の支援により実施されました。論文情報
タイトル
“QuickConc: A rapid, efficient, and power-free eDNA concentration method with cationic-assisted capture”DOI
10.1002/ece3.72269著者
Tomohiro Kuroita, Qianqian Wu, Ryo Iwamoto, Toshifumi Minamoto掲載誌
Ecology and Evolution問い合わせ先
神戸大学総務部広報課E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)
研究者
源 利文
教授
人間発達環境学研究科

SDGs

人間発達環境学研究科
神戸大学 研究