子どもの外陰部の損傷は虐待によるものか?飼い犬の咬傷か?
―虐待事例と動物による偶発的な損傷事例とを客観的に識別する知見を提示―
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
発表のポイント
外陰部に損傷を負った1歳半の男児の事例から、男児の外陰部は、損傷の辺縁が不整(ギザギザ)ではなく整であったため、犬の咬傷ではなく、何らかの刃器によるものと判断しました。飼い犬を用いた実験では、犬の咬傷は辺縁が不整(ギザギザ)になり、歯の痕跡が残ることを示しました。
本結果は、動物による偶発的な損傷と虐待との鑑別に貢献し得る結果となりました。
発表概要
本件は、外陰部に損傷を負った1歳半の男児の事例です。男児の両親は、不在の間に飼い犬が男児を襲い、外陰部を噛んだと主張しました。しかし、山口大学大学院医学系研究科法医学講座 髙瀬泉教授と、四国こどもとおとなの医療センター今井剛成育がん診療部長は、損傷の特徴から、男児が何らかの刃器で虐待されたと結論づけました。この結論を裏づける実験を行った結果 、犬の咬傷は辺縁が不整(ギザギザ)になり、周囲に歯の痕跡が残ることが明らかになりました。背景・目的
児童の性虐待は世界的な問題となっています。日本では、性虐待は子ども虐待全体の1.1%(2023年)とされていますが、より多くの潜在的な事例が示唆されています。
虐待による外陰部の損傷については、保護者が「犬が噛んだ」などと、偶発的な事故を装って主張することがあります。
そこで、飼い犬を用いた実験で咬傷の特徴を明らかにして、虐待による損傷との鑑別方法を検討しました。
症例
1際半の男児の両親は、「飼い犬が男児のオムツを剝がして外陰部を噛んだ 。自分たちは不在だった」 と主張しました。
診察では、陰茎の包皮が完全に剝離していました。また、背中全体および左右大腿内側に新旧の皮下出血群を認めました。犬の歯の痕跡は、身体のいずれの部分にも認められませんでした。治療は、抗生物質の投与などが行われました。
結果・考察
髙瀬教授と今井成育がん診療部長は、当該男児の外陰部において損傷の辺縁が整であったことから、犬の咬傷ではなく、何らかの刃器が使用されたものと判断しました。
事例と同程度の体格および歯列弓をもつ飼い犬を用いて、咬傷の性質と状態を検討しました。茹でた手羽先を犬に与えると、最初はそっと噛み始めましたが、最終的に骨まで噛み砕き、皮、筋肉および骨の辺縁はいずれも不整(ギザギザ)になりました。プラスティックフィルムで包まれたソーセージでは、その表面に歯の痕跡が残されていました。
以上より、犬が噛んだ場合は、その他の部にいかなる損傷も生じさせることなく包皮のみを剝離すること、あるいは、身体の皮膚表面に歯の痕跡を全く残さないことはきわめて困難であると結論づけました。
結語
本報告は、何らかの刃物によって虐待された1歳半の男児の症例を提示しました。本結果は、犬による咬傷と主張される同様の虐待事例と動物による偶発的な損傷事例とを客観的に鑑別する上で重要な知見となり得るものです。
論文情報
論文名:Genital Wounds: Suspected Child Abuse Versus Alleged Pet Dog Bites.掲載誌:Cureus 17(7): e88874.
掲載日:2025年7月28日
著 者:Takase I, Imai T.
DOI:10.7759/cureus.88874
問い合わせ先
<論文に関すること>山口大学大学院医学系研究科法医学講座
教授 髙瀬 泉
電話番号:0836-22-2234
Eメール:legal@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
<報道に関すること>
山口大学医学部総務課広報・国際係
電話番号:0836-22-2009
Eメール:me268@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
山口大学 研究