バイオリサイクルに革新:PET分解酵素の活性を69%向上発~
~疎水性アルキル鎖をN末端に連結する簡便な酵素改変技術を開
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
循環型社会/フィルム/ポリエチレンテレフタレート/酵素分解/高分子/電子線/走査型電子顕微鏡/加水分解/ポリエチレン/水分解/持続可能/地球環境/透明性/表面分析/AFM/ナノメートル/プラスチック/リサイクル/原子間力顕微鏡/電子顕微鏡/微細構造/SEM/エチレン/炭化水素/高速原子間力顕微鏡/TPA/アミノ酸/遺伝子

総合理工
2025.10.20
研究のポイント
・クチナーゼのN末端に疎水性アルキル鎖を連結することで、PET分解活性を強化。・疎水性部位を連結したクチナーゼは、PETフィルムの加水分解を最大69%増加。
・改変酵素がPETフィルムの表面へより効率的かつ安定的に吸着。
北海道大学大学院地球環境科学研究院の小野田晃教授、北海道立総合研究機構の瀬野修一郎主査、名古屋大学大学院理学研究科、自然科学研究機構 生命創成探究センターの内橋貴之教授らの国際共同研究チームは、酵素を用いたPETリサイクル技術に革新的な改良を加えることに成功しました。研究チームは、ペットボトルや繊維製品に広く使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)*1を分解する酵素クチナーゼ*2のN末端*3に疎水性アルキル鎖*4を連結し、分解活性を強化する新技術を開発しました。この改変技術は、遺伝子組換えを必要とせず、簡便な化学反応で酵素を改良できます。疎水性部位を連結した酵素は、PET表面により強く吸着し、本来の触媒活性を保持したまま、PET分解効率が向上します。この改変酵素は天然酵素に比べて、分解物であるテレフタル酸(TPA)*5の生成量を最大69%増加させることが確認されました。さらに、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)*6での観察により、改変酵素が天然酵素よりもPET表面に効率的かつ安定的に吸着する様子がリアルタイムで観察されました。走査型電子顕微鏡(SEM)*7による表面分析では、改変酵素処理後のPETフィルムに顕著に分解した表面形状が確認され、PETとの相互作用の強化によって、PET加水分解を促進できることを明らかにしました。
この成果は、酵素自体の構造を大きく変えることなく、PET表面への結合特性を向上させて、PET加水分解の性能を大幅に改善できることを実証した点で画期的です。本技術は他の種類のプラスチック分解酵素にも応用可能であり、持続可能な循環型社会の実現に向けた重要な一歩として、産業規模でのプラスチックリサイクルを加速させる技術です。
なお、本研究成果は2025年10月5日(日)公開のACS Sustainable Chemistry & Engineering誌にオンライン掲載されました。
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用語説明
*1 ポリエチレンテレフタレート(PET) … ペットボトルや衣類の繊維などに広く使用される代表的なプラスチック。エチレングリコールとテレフタル酸が重合してできる高分子化合物であり、透明性と強度に優れるが、自然環境下では分解されにくい。*2 クチナーゼ … クチンを分解する酵素。本来は植物表面のクチンを分解するが、PETとクチンの化学構造が似ているため、PETも分解できる能力を持つ。
*3 N末端 … タンパク質(酵素)の一方の端。アミノ酸が鎖状につながってタンパク質を形成するが、その開始点となる端をN末端と呼ぶ。
*4 疎水性アルキル鎖 … 水になじみにくい(疎水性)炭化水素の鎖状構造。C3、C6、C9は炭素原子が3個、6個、9個つながった鎖を指す。油のような性質を持ち、同じく疎水性のプラスチック表面に吸着しやすい。
*5 テレフタル酸(TPA) … PETの主要構成成分の一つ。PETが分解されると生成される物質で、この量を測定することでPET分解の程度を評価できる。再びPET製造の原料として利用可能。
*6 高速原子間力顕微鏡(HS-AFM) … ナノメートル(10億分の1メートル)レベルの超微細な構造を、リアルタイムで観察できる顕微鏡。酵素分子がPET表面に吸着する様子を動画として捉えることができる。
*7 走査型電子顕微鏡(SEM) … 電子線を試料表面に走査させて、表面の微細構造を高倍率で観察する装置。PET表面の侵食状態を詳細に観察できる。
論文情報
論文名 Enhanced Adsorption and Enzymatic Hydrolysis of Poly(Ethylene Terephthalate) by Cutinase with an N-Terminal Hydrophobic Tether(N末端に疎水性部位を連結したクチナーゼによるポリエチレンテレフタレートの吸着促進と酵素分解の向上)著者名 Shuvo Md Sadikur Rahman1、Doris Ribitsch2、Georg M. Güebitz2、瀬野修一郎3、内橋貴之4、5、小野田晃6(1北海道大学大学院環境科学院、2ウィーン天然資源大学、3北海道立総合研究機構産業技術環境研究本部工業試験場、4名古屋大学大学院理学研究科、5自然科学研究機構 生命創成探究センター、6北海道大学大学院地球環境科学研究院)
雑誌名 ACS Sustainable Chemistry & Engineering(持続的な化学と工学の専門誌)
DOI10.1021/acssuschemeng.5c05212
公表日 2025年10月5日(日)(オンライン公開)
研究代表者
大学院理学研究科 内橋 貴之 教授https://www.nagoya-d-lab.com/
名古屋大学 研究