3歳検尿が小児アルポート症候群の最多の発見契機
未就学児の検尿による早期発見・早期治療が腎予後の改善につながる
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 3歳検尿はすべての遺伝形式のアルポート症候群の早期発見・早期治療導入に資する重要なスクリーニングであることが示される |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
データ解析/遺伝性疾患/持続可能/持続可能な開発/ネフローゼ/腎臓病/糸球体/腎移植/腎不全/染色体/早期診断/難聴/ゲノム解析/ホルモン/胎児/スクリーニング/スプライシング/基底膜/腎機能/腎臓/ゲノム/遺伝学/医師/血圧/小児/全ゲノム解析/早期発見/難病/非侵襲/慢性腎臓病/臨床研究
2025.10.07医歯薬学胎児医学・小児成育学
腎臓内科学
アルポート症候群
神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の北角英晶医師、石森真吾特命准教授、堀之内智子講師、山村智彦助教、榊原菜々研究員、長野智那助教、野津寛大教授らの研究グループは、遺伝学的に確定された小児アルポート症候群患者を対象に、診断に結びついた最初の契機を調査しました。その結果、もっとも多い発見契機は3歳児健診での検尿(以下、3歳検尿)であることを明らかにしました。さらに、3歳検尿で発見された患者のうち半数以上が、すでに治療開始基準を満たしており、速やかな治療開始が必要な段階であったことが判明しました。
アルポート症候群は遺伝性の腎疾患で最も頻度が高く、重篤化すると腎不全、難聴、眼症状を合併します。遺伝形式によっては若年で末期腎不全に至り、透析や腎移植が必要になりますが、RAS阻害薬を早期に開始することで末期腎不全到達を遅らせることが示されています。
日本では多くの自治体が3歳検尿を実施していますが、これまで3歳検尿の有用性を小児アルポート症候群に関して系統的に検証した報告はありませんでした。近年、一部自治体でコスト面を理由に3歳検尿の中止が検討・実施される動きも見られます。本研究は、3歳検尿で尿異常を指摘された子どもが早期に遺伝学的検査を受けることで小児アルポート症候群を早期確定診断でき、RAS阻害薬の早期導入により腎予後の改善が期待できることを示しました。
本研究成果は、2025年9月23日付で国際腎臓学専門誌『Kidney International Reports』に掲載されました。

ポイント
遺伝学的に確定された小児アルポート症候群患者における発見契機として、3歳検尿が最多であることを初めて示した。3歳検尿で発見された患者の約60%が、発見時点で既にガイドラインに基づくRAS阻害薬の治療開始基準を満たしていた。
3歳検尿は、小児アルポート症候群の早期発見に直結し、遺伝学的検査による早期確定診断を経てRAS阻害薬の早期導入につながり、末期腎不全到達を遅らせることができる重要なスクリーニングである。
研究の背景
アルポート症候群※1は遺伝性腎疾患の中で高頻度かつ重症化し得る疾患で、腎症に加え難聴や眼症状を伴うことがあります。遺伝形式によっては若年で末期腎不全※2に至り、透析や腎移植が必要となります。従来は症状の進行後に腎生検で診断することが多かったものの、近年は遺伝学的検査により非侵襲的に確定診断が可能になりました。これまでに蓄積された臨床研究により、アルポート症候群では早期にレニン・アンギオテンシン系阻害薬(RAS阻害薬)※3を開始することで腎不全到達を遅延できることが示され、近年の国内外ガイドラインでも治療開始時期が示されました。しかしアルポート症候群は初期に無症状かつ尿異常のみで進行することが多く、症状が出てから受診しても既に治療が間に合わないケースや、軽症で精密検査に至らず診断が遅れるケースが問題となっていました。日本では多くの自治体で3歳検尿が行われ、小学校以降は毎年の学校検尿も実施されているため、早期診断につながる可能性が期待されていましたが、3歳検尿で血尿などが指摘されても蛋白尿がない場合は良性と判断され見過ごされることもありました。さらに、近年はコスト面を理由に3歳検尿を廃止する自治体も出てきています。
研究の内容
本研究は、遺伝学的に確定された18歳以下の国内アルポート症候群患者356例を対象に、発見契機、症状、遺伝形式の内訳および3歳検尿時点での「アルポート症候群診療ガイドライン2017」に基づく治療開始基準の充足状況を解析しました。その結果、発見契機として最も多かったのは3歳検尿(113例)、次いで肉眼的血尿(81例)でした(図1)。3歳検尿で発見された113例の遺伝形式内訳は、X連鎖女性43.3%、X連鎖男性30.1%、常染色体優性19.5%、常染色体劣性6.2%でした。さらに、3歳検尿で発見された患者の約60%が、発見時点で既にRAS阻害薬開始基準を満たしていました。
本研究により、3歳検尿はすべての遺伝形式のアルポート症候群の早期発見・早期治療導入に資する重要なスクリーニングであることが示されました。

今後の展開
本研究は、3歳検尿によって多くの小児アルポート症候群患者を早期に発見できる可能性を示しました。加えて、3歳検尿で尿異常を指摘された場合には、速やかに遺伝学的検査を含む検査を行うことが重要です。全国で3歳検尿が広く実施されれば、患者個人の予後改善だけでなく、末期腎不全に係る医療コストの抑制にも寄与する可能性があります。用語解説
※1 アルポート症候群
糸球体基底膜の異常を主とする遺伝性疾患。遺伝形式により進行速度が異なり、特にX染色体連鎖型男性や常染色体潜性型の場合は、若年で末期腎不全に至る。根本的な治療法は確立されておらず、国の指定難病である。※2 末期腎不全
腎機能が著しく低下し、透析や腎移植が必要となる状態。※3 レニン・アンギオテンシン系阻害薬(RAS阻害薬)
血圧を調節するホルモン系を抑制する薬で、腎保護効果がありアルポート症候群の腎予後改善に用いられる。謝辞
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「糸球体障害に伴う慢性腎臓病に対する新規治療薬の開発」「難病のゲノム医療実現に向けた全ゲノム解析の実施基盤の構築と実践:ネフローゼ症候群・遺伝性腎疾患を対象としたゲノムデータ解析(國土班)」、文部科学省科学研究費「遺伝性腎疾患におけるスプライシング異常の影響の全容解明および治療法の開発」の支援を受けて行われました。論文情報
タイトル
“Impact of Age-3 Urine Screening on Diagnosis and Treatment Timing in Alport Syndrome”DOI
10.1016/j.ekir.2025.09.022著者
Hideaki Kitakado, Shingo Ishimori, Shuhei Aoyama, Yuka Kimura, Yuta Inoki, Chika Ueda, Yu Tanaka, Tomoko Horinouchi, Tomohiko Yamamura, Nana Sakakibara, China Nagano, Kandai Nozu掲載誌
Kidney International Reports問い合わせ先
報道問い合わせ先
神戸大学総務部広報課E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)
研究者
石森 真吾
准教授
医学研究科

堀之内 智子
講師
医学部附属病院

山村 智彦
助教
医学研究科

榊原 菜々
研究員
医学研究科

長野 智那
助教
医学部附属病院

野津 寛大
教授
医学研究科

SDGs

医学研究科
医学部附属病院
神戸大学 研究