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埼玉大学 研究Discovery Saga
2025年10月1日

ハエトリソウの“触覚”センサーを解明

-植物の感覚の解明に向けて大きく前進-(大学院理工学研究科 須田啓助教、豊田正嗣教授 共同研究)

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
動物とは異なる植物の“感覚”の解明に向けた大きな一歩となると期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
生理反応/浸透圧/センサー/バイオセンサー/人工タンパク質/カルシウムイオン/一細胞/生態系/細胞内カルシウムイオン/カルシウムシグナル/活動電位/細胞膜/蛍光タンパク質/緑色蛍光タンパク質(GFP)/筋肉/大腸/イオンチャネル/カルシウム/細胞内カルシウム/神経細胞/大腸菌/遺伝子

2025/10/1
プレスリリース全文はこちらからご覧ください。

発表概要

埼玉大学大学院理工学研究科の須田啓助教、浅川裕紀大学院生、萩原拓真研究員、豊田正嗣教授(サントリー生命科学財団・SunRiSE Fellow)らは、基礎生物学研究所の長谷部光泰教授の研究グループと共同で、食虫植物のハエトリソウ(Dionaea muscipula1において、機械刺激で活性化するタンパク質DmMSL102が虫に触れられたことを感知する“触覚”のセンサーとして働いていることを明らかにしました。

本研究グループはカルシウムイオンのバイオセンサー(GCaMP)3を組み込んだハエトリソウを用いて、植物が虫からの接触刺激をどのように感知しているのかを明らかにしました。ハエトリソウは2枚に分かれた葉を高速で閉じ合わせることで虫を捕らえる食虫植物で、葉には感覚毛と呼ばれる組織があり、虫からの接触刺激を感知することで動物における“触覚”の役割を果たしています。DmMSL10を失ったハエトリソウでは虫を感知する効率が低下して、獲物を捕らえにくくなることが分かり、ハエトリソウがDmMSL10を使って虫からのわずかな接触刺激を高感度で検知するシステムを構築していることが明らかになりました。

本成果は、2025年9月30日午前10時(ロンドン現地時間)に、英国科学雑誌『Nature Communications』に公開されました。
ポイント
ハエトリソウの葉が接触刺激に応じて運動する仕組みは発見から200年以上研究されてきましたが(図1)、どのようなセンサーを使って接触刺激を感知しているのか、という細胞レベルでの詳細な機構は未解明でした。
新たに確立した「1細胞レベルで細胞内のカルシウムシグナル4と電気シグナル5を同時に測定する技術」や「生態系を模した環境でのカルシウムシグナルを測定する技術」を用いて、動物には存在しないDmMSL10タンパク質が虫からの接触刺激を感知する高感度なセンサーとしての役割を果たしていることを明らかにしました。
多くの植物が接触刺激を感知する“触覚”を有しており、本成果は動物とは異なる植物の“感覚”の解明に向けた大きな一歩となると期待されます。


図1.ハエトリソウの接触刺激感知と運動
ハエトリソウの葉では感覚毛で接触刺激を感知すると、葉全体にカルシウムシグナル・電気シグナルが伝わります。葉全体に2度シグナルが伝わると、左右に分かれた葉が閉じ合わさるように運動し獲物を捕らえます。

論文情報

雑誌名 Nature Communications
論文名 MSL10 is a high-sensitivity mechanosensor in the tactile sense of the Venus flytrap
著者名 Hiraku Suda, Hiroki Asakawa, Takuma Hagihara, Shoko Ohi, Shoji Segami, Mitsuyasu Hasebe, Masatsugu Toyota
DOI 10.1038/s41467-025-63419-w
URL https://doi.org/10.1038/s41467-025-63419-w

用語解説

1. ハエトリソウ (Dionaea muscipula)
北アメリカの湿地帯に生息する食虫植物の一種。葉身を高速で運動させて動物を捕え、自身の栄養とします。葉身にある6本の感覚毛を用いて獲物からの接触刺激を感知します。接触刺激を感知すると葉全体に伝わるカルシウムシグナルと電気シグナルが生じ、2度の接触刺激を感知すると運動が起こります。

2.MECHANOSENSITIVE CHANNEL OF SMALL CONDUCTANCE–LIKE 10 homologue (DmMSL10)
細胞膜が伸展することによって活性化し、イオンを透過させるタンパク質をコードしているMSL遺伝子のハエトリソウにおける相同遺伝子。大腸菌における相同遺伝子(MscS)は浸透圧調整を担っており、菌類や植物で広く保存されていますが、動物には相同遺伝子が見られません。ハエトリソウでは他の組織に比べて特に感覚毛に多く発現しています。


DmMSL10(水色)は、細胞膜の進展に応じて開口し、イオンを透過させるイオンチャネルです。

3. カルシウムイオンのバイオセンサー(GCaMP)
緑色蛍光タンパク質(GFP)にカルシウムイオンを結合する領域を融合させた人工タンパク質 (Nakai et al.,Nature Biotechnology 2001; Tian et al.,Nature Methods 2009)。カルシウムイオンと結合することで緑色に光ります。

4. カルシウムシグナル
細胞内で遊離しているカルシウムイオンは多くの生物で筋肉の収縮や神経伝達などを担っています。細胞は細胞内カルシウムイオン濃度の変化を信号(カルシウムシグナル)として用いることで、後に続く様々な生理反応を制御しています。通常、細胞内のカルシウムイオン濃度は細胞外の1/10000倍ほどの低濃度となっています。

5. 電気シグナル、受容器電位、活動電位
動物では神経細胞などで活動電位をはじめとした電気的な変化が起こり、それが信号(電気シグナル)として伝わることで様々な情報を伝えています。刺激を受けた場所周辺(受容器)のみで起こる受容器電位や、長距離にわたり伝わる活動電位などがあります。ハエトリソウは植物において世界で初めて活動電位が記録された植物です。


須田 啓|埼玉大学研究者総覧
豊田 正嗣|埼玉大学研究者総覧
埼玉大学細胞情報研究室(豊田研究室)ウェブサイト