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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年8月30日

\SiCパワーデバイスの利便性アップ!/ SiC MOSデバイスの性能・信頼性を向上する新手法

高温での希釈水素熱処理が鍵

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
工学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
パワーデバイス/酸化膜/カーボンニュートラル/持続可能/省エネ/持続可能な開発/カーボン/SiC/シリコン/移動度/自動車/電気自動車/熱処理/ナトリウム/ラット/ストレス
2025-8-26●工学系工学研究科准教授小林 拓真

発表のポイント

シリコンテクノロジーの標準技術である希釈水素熱処理により、SiC MOSデバイスの性能と信頼性の向上を達成。
従来のSiCパワーデバイスが抱えていた、特性改善のための不純物導入に伴う信頼性劣化という課題を、高温の希釈水素熱処理を絶縁膜堆積の前後に2度施す独自手法により解決。
省エネ性能に優れたSiCパワーデバイスの更なる普及により、カーボンニュートラル社会への貢献にも期待。

発表概要

大阪大学大学院工学研究科の小林拓真准教授、藤本博貴さん(博士後期課程)、神畠真治さん(当時 博士前期課程)、八軒慶慈さん(博士前期課程)、原征大助教、渡部平司教授の研究グループは、希釈水素熱処理(図1)によるSiC MOSデバイスの性能及び信頼性向上を達成しました。
電気自動車や鉄道、産業機器などに広く応用されるSiC MOSデバイスは、窒素等の異種不純物導入による特性改善が一般的ですが、酸化膜中への不純物導入によるデバイスの信頼性劣化が課題となっていました。
今回、研究グループは、余分な不純物を一切排除し、成熟したシリコンテクノロジーで広く用いられる希釈水素熱処理を高温で2度施す独自手法により、SiC MOSデバイスの信頼性の大幅改善に成功しました。これにより、SiC MOSデバイスの長時間動作における特性変動を抑制でき、SiCパワーデバイスの更なる普及加速が期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Applied Physics Express」に、8月26日(火)17時(日本時間)に公開されました。



図1. SiO₂/SiC構造に対する希釈水素熱処理の概念図。
背景は本研究を実施したクラス1クリンルーム施設内の風景。

研究の背景

電気自動車や鉄道、産業機器などに広く応用されているSiC MOSデバイスでは絶縁膜界面の高密度欠陥による移動度低下が顕著であり、特性の改善には欠陥の低減が不可欠です。これまでの欠陥低減の標準技術は、窒素導入(界面窒化)でしたが、酸化膜中への窒素導入により、デバイスの信頼性が劣化することが課題でした。
現状のSiC MOSデバイスは、窒素導入による信頼性劣化のため、MOSゲートに電圧を印加した際に特性が大きく変動する傾向にあります。これにより、デバイスの動作条件には制約が生じ、使える用途も限られてしまいます。また、安定した動作を実現するためには、精密なゲート駆動回路の設計が不可欠です。
長年の研究開発の過程で、ボロンやリン、ナトリウムなどの他の不純物も特性改善に効果的であることが見出されましたが、いずれも信頼性劣化に繋がることが指摘されてきました。したがって、このような異種元素導入によらない特性改善手法は、SiCパワーデバイス分野が達成すべき大きなマイルストーンでした。

研究の内容

研究グループでは、窒素やボロン、リンなどの異種不純物の導入に頼ることなく、シリコンテクノロジーの標準技術である希釈水素熱処理により、SiC MOSデバイスの特性と信頼性の劇的な改善に成功しました。絶縁膜形成後の希釈水素熱処理だけではSiC MOSデバイスの特性向上にはそれほど有効ではないのですが、本研究では高温(1200℃以上)の希釈水素熱処理を絶縁膜堆積の前後に2度施す独自手法(2段階水素熱処理)により、移動度と信頼性の大幅な向上を達成しました(図2、3)。



図2. 提案手法により作製したSiC MOSデバイスの移動度。通常の酸化処理(不純物なし)による絶縁膜形成プロセスでは、移動度は典型的に2–3 cm²V⁻¹s⁻¹に留まるのに対し、提案手法ではその5倍以上に向上。



図3. ゲートにストレス電圧を印加した際のSiC MOSデバイスのフラットバンド電圧変動(閾値電圧変動に対応)。正・負電圧耐性ともに、従来標準の窒素導入プロセスに比べて劇的に改善していることが見て取れる。
本手法は、従来の研究開発で見出された不純物導入による手法とは一線を画するものであり、学術的に重要であるのと同時に、産業界に与えるインパクトも大きいと予想されます。当該技術により、SiC MOSデバイスの移動度を向上しつつ、長時間動作における特性変動を大幅に抑制できます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、SiC MOSデバイスの動作条件を拡張でき、SiCパワーデバイスの利便性を格段に向上できます。このことは省エネSiCパワーデバイスの更なる普及に繋がり、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する成果と言えます。

特記事項

本研究成果は、2025年8月26日(火)17時(日本時間)に国際学術誌「Applied Physics Express」に掲載されました。
タイトル:“Performance and reliability improvements in SiC(0001) MOS devices via two-step annealing in H₂/Ar gas mixtures”
著者名:Takuma Kobayashi, Hiroki Fujimoto, Shinji Kamihata, Keiji Hachiken, Masahiro Hara, and Heiji Watanabe
DOI:https://doi.org/10.35848/1882-0786/adf6ff
なお、本研究は、文部科学省INNOPEL JPJ009777、JST ALCA-Next JPMJAN24E5、およびJSPS 科研費24H00046の助成を受けて行われました。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 物理学系専攻 精密工学コース 先進デバイス工学領域
http://www-ade.prec.eng.osaka-u.ac.jp/
小林拓真 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5a9b0b4063dae614.html
原征大 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0eba4fd5573f5ffa.html
渡部平司 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5eaba14b0f47fb11.html

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