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大阪公立大学 研究Discovery Saga
2025年8月20日

新たなキラル対称性の破れ現象を発見

―生命の分子の“向き”の謎を解明する手がかりに―

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学化学総合理工工学農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
対称性/非平衡/銀河/エナンチオマー/キラル/有機分子/ACT/構造転移/対称性の破れ/持続可能/持続可能な開発/単結晶/モデル化/結晶化/結晶性/ナトリウム/アミノ酸/ラット/誘導体

2025年8月19日
理学研究科
プレスリリース

発表のポイント

有機分子「フェノチアジン誘導体」のアキラル結晶※1が、分子のキラリティ※2を反転させながらキラル結晶※3へと構造転移※4する新しいキラル対称性の破れ現象※5を発見
溶液中の現象のため完全なモデル化が困難であった従来の例とは異なり、溶媒を必要としないシンプルな系で進行することから、モデル研究や、生命のホモキラリティ※6の謎を解明する重要なプラットフォームとして期待

発表概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の岡田 武蔵さん(博士前期課程2年)、桶谷 龍成助教、久木 一朗教授、同大学院工学研究科の髙司 健太郎さん(博士前期課程2年)、重光 孟講師、木田 敏之教授、大阪公立大学大学院理学研究科の中嶋 琢也教授らの研究グループは、キラルなフェノチアジン誘導体のアキラル結晶が、分子のキラリティを反転しつつ単結晶性を維持したままキラル結晶へ構造転移する現象を発見しました(図)。この現象は溶媒を必要とせず、完全に結晶中で進行する新たなキラル対称性の破れ現象となります。
これまで化学分野における非平衡開放系のキラル対称性の破れ現象は、優先富化※7とビエドマ熟成※8が知られていました。いずれも溶液中の現象であり、大量の溶媒分子と少量の溶質分子が複雑に入り乱れるため、キラル対称性の破れの完全なモデル化は困難でした。
今回、研究グループは、分子内でキラリティが容易に反転するフェノチアジン誘導体を利用して、アキラル結晶からキラル結晶へ構造転移する第三のキラル対称性の破れ現象を発見しました。この現象は従来のものとは異なり、完全に1つの結晶中で進行する極めてシンプルな現象であるため、キラル対称性の破れの原理やその先にある、生命のホモキラリティの謎を解明する手がかりになります。また類似の現象を示すものとして塩素酸ナトリウムが知られていますが、こちらは構成要素にキラリティをもたない点で本系とは異なります。本研究では単一の分子にキラリティがあることから、分子レベルでのキラル対称性の破れ現象の理解に貢献できる成果です。
本研究成果は、英国王立化学会の「Chemical Science」に、8月19日(火)に公開されました。



図 本研究で使用した分子の構造(上)と分子内でキラリティが反転することで起こる、アキラル結晶からキラル結晶への構造転移(下)のモデル図。

掲載誌情報

【発表雑誌】Chemical Science
【論 文 名】Spontaneous chiral symmetry breaking in a single crystal
【著   者】Ryusei Oketani, Musashi Okada, Ichiro Hisaki, Takaji Kentaro, Hajime  Shigemitsu, Toshiyuki Kida, Takuya Nakashima
DOI:https://doi.org/10.1039/D5SC02623G

用語解説


※1 アキラル結晶: キラル結晶ではない結晶。キラル化合物では一対のエナンチオマーから構成される結晶。
※2 キラリティ:ある物体がその鏡像と重ね合わせることができない性質。銀河の渦から分子レベルまで非常に幅広いスケールで見られる性質であり、この性質をもつ化合物をキラル化合物、分子をキラル分子という。特に、互いに鏡像の右手型と左手型の分子をそれぞれエナンチオマーと呼ぶ。また右手型と左手型の1対1の混合物をラセミ体とよぶ。
※3 キラル結晶:キラリティの性質をもつ結晶。キラル化合物では一方のエナンチオマーのみで構成される結晶。
※4 構造転移:温度や光などの外部刺激により、結晶中の分子の配列や構造が変化すること。
※5 キラル対称性の破れ現象:キラル分子がペアで存在している状態から、一方のエナンチオマーのみで構成されている状態に変化すること。
※6 生命のホモキラリティ:地球上の生命を構成するアミノ酸や糖などのキラル分子は一方のエナンチオマーのみで構成されていること。
※7 優先富化:高過飽和なラセミ体溶液を結晶化すると、一方のエナンチオマーが溶液側に濃縮される現象。
※8 ビエドマ熟成:ラセミ体の懸濁液を攪拌し続けて溶解と析出を繰り返していくうちに、懸濁液中の結晶が徐々に一方のエナンチオマーに偏っていく現象。

 特記事項


本研究は、JSPS科研費(23K13708, 23H04593, 22H05134, 24K01468, 25H01626, 25K01728)、JST ACT-X(JPMJAX22A2)の一環、第一三共はばたく次世代プログラム、池谷科学技術振興財団、大阪大学大学院基礎工学研究科未来ラボシステムの支援等により実施されました。研究データの一部は文部科学省先端研究基盤共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)JPMXS0441200024で共用された機器を利用して得られました。奈良先端科学技術大学院大学の河合壮教授にはCPL測定の検討でご協力いただきました。

問い合わせ先

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

プレスリリース全文(PDF文書:623.1KB)
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