日本人集団初の免疫細胞シングルセルアトラスの創生
多層オミクス情報をシングルセル空間へ投影するフレームワークを開発
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
タスク/フレームワーク/プロファイル/情報学/シナジー/学際研究/ゲノミクス/遺伝情報/生殖/安全管理/インフォマティクス/一細胞/CD8/QTL解析/微生物/シークエンス/遺伝統計学/生殖細胞/TCR/ゲノムワイド/ゲノム情報/微生物叢/ウイルス感染症/オミクス/ゲノム変異/ヒトゲノム/染色体/体細胞変異/SNP/ゲノムワイド関連解析/ゲノム解析/メタゲノム/新型コロナウイルス/骨髄/病態解明/B細胞/DDS/HLA/RNA/T細胞/トランスクリプトーム/ミトコンドリア/遺伝子発現制御/自己免疫/自己免疫疾患/受容体/創薬/発現制御/発現調節/免疫学/免疫細胞/GWAS/ウイルス/ゲノム/ワクチン/遺伝学/遺伝子/遺伝子発現/遺伝子変異/医療安全/一塩基多型/疫学/加齢/感染症/個別化医療/小児/新型コロナウイルス感染症/染色体異常/糖尿病
2025-7-30●生命科学・医学系医学系助教枝廣 龍哉発表のポイント
日本人集団235名由来の150万超の末梢血単核細胞(PBMC)を用いたシングルセルデータを中心とし、ヒトゲノムデータ・血漿プロテオームデータ・腸内微生物叢シークエンスデータの多層オミクス情報を有する免疫細胞シングルセルアトラス「OASIS(Osaka Atlas of Immune Cells)」を構築。各種オミクス情報をシングルセル空間に単一細胞解像度で投影することで、各オミクスが細胞種・細胞状態に応じて免疫細胞プロファイルを動的に制御していることを明らかに。
あわせて、日本人集団における初のシングルセルeQTL(expression quantitative trait loci)リソースの構築に成功し、日本人集団を対象とするゲノムワイド関連解析に活用できるデータベースに。
加齢に伴い後天的に蓄積する体細胞変異が、COVID-19重症化に関与する分子メカニズムの一端を解明。
新たな解析フレームワークが、疾患病態解明からゲノム創薬発展や個別化医療実現まで今後の広範な医学研究の強力な基盤となることに期待。
発表概要
大阪大学大学院医学系研究科の枝廣龍哉助教(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム 客員研究員)、佐藤豪さん(当時:博士課程、現在:東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 助教/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム 客員研究員)、熊ノ郷淳教授(呼吸器・免疫内科学)、岡田随象教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームディレクター)らの研究グループは、日本人集団235名(新型コロナウイルス感染症:COVID-19患者88名、健常者147名)のPBMC 150万細胞超を対象にシングルセルトランスクリプトーム解析(scRNA-seq)を実施し、生殖細胞系列変異と体細胞変異を含むヒトゲノムデータ・血漿プロテオームデータ・腸内微生物叢シークエンスデータの多層オミクス情報を有する免疫細胞シングルセルアトラス「OASIS」を構築しました。このOASISを用いて、各種オミクス情報をシングルセル空間に単一細胞解像度で投影する解析を網羅的に実施しました。その結果、生殖細胞系列変異(一塩基多型:SNP、HLA多型、ポリジェニックリスクスコア:PRS)、体細胞変異(モザイク染色体異常: mCA、Y染色体喪失: LOY、ミトコンドリア・ヘテロプラスミー)、腸内微生物叢菌量は、細胞種・細胞状態に応じて免疫細胞プロファイルを動的に制御していることが明らかとなりました。
また、その解析の一環で、日本人集団における初のシングルセルeQTLリソースを構築することに成功しました。
さらに、体細胞変異は、COVID-19患者において細胞種特異的に集約される傾向を示し、同一個体内においても変異細胞と正常細胞とで異なる免疫プロファイルを示すことが確認できました。また、これらの体細胞変異がCOVID-19重症化の一因となる分子メカニズムも解明しました。
本研究は、多層的オミクス情報をシングルセル空間に投影する新たな解析フレームワークを提示したものであり、今後の疾患病態解明やゲノム創薬発展に向けた重要な基盤となることが期待されます。

図1. 本研究の概要
研究の背景
近年のゲノムワイド関連解析(GWAS)により、多くの疾患や形質に関する数千もの感受性遺伝子領域が同定されてきました。しかし、GWASで同定されたこれらの遺伝子変異の大半は非コード領域に位置しており、その生物学的な機能を明らかにするのは困難であることが多いのが実情でした。こうした背景から、遺伝子変異が、遺伝子発現量・タンパク量などの分子形質に与える影響を調べるmolecular QTL解析が注目されるようになり、特にeQTL解析は、GWASで同定された遺伝子変異の機能的解釈において最も広く利用される解析手法として確立されています。しかしながら、既存の大規模eQTLリソースの多くはバルクRNA-seqを用いたものであり、多様な細胞種や連続的な細胞状態に沿った動的な遺伝子発現制御機構など、全体像を評価することは困難でした。加えて、シングルセルeQTLリソースは欧米人集団を中心として構築されているため、日本人集団を対象としたシングルセルeQTLリソースは存在していませんでした。このことは、日本人集団におけるpost-GWAS解析において大きな障壁となっていました。
また、従来のeQTL研究において、再構成遺伝子であるT/B細胞受容体(TCR/BCR)の多様性に対する生殖細胞系列変異の影響を同時に検討したリソースは限定されていました。さらに、がん領域で注目されてきた体細胞変異を、非がんサンプル由来のPBMCにおいて“QTL”層として扱い、免疫細胞の性質や機能への影響をシングルセル解像度で解釈した先行研究はこれまで少ない状況でした。
研究の内容
本研究グループは、日本人集団235名(COVID-19患者88名、健常者147名)由来の150万超のPBMCに対してシングルセル解析を実施し、生殖細胞系列変異と体細胞変異を含むヒトゲノムデータ・血漿プロテオームデータ・腸内微生物叢シークエンスデータの多層的オミクス情報が紐づいた、日本人集団初の免疫細胞シングルセルアトラス「OASIS(Osaka Atlas of Immune Cells)」を構築しました。まず、このリソースを活用し、細胞種ごとの網羅的なシングルセルeQTL解析を実施、カタログ化するとともにその全シングルセルeQTL統計量の一般公開を行いました(https://japan-omics.jp/)。骨髄球系細胞クラスターにおいては、連続的な細胞状態に応じたeQTL(ダイナミックeQTL)解析を行い、細胞状態依存的な遺伝子発現制御機構を明らかにしました(図2)。また、東アジア人集団で実施されたGWASとOASISのシングルセルeQTLの共局在解析も実施し、疾患関連遺伝子多型がどの細胞種・細胞状態において、どの標的遺伝子の発現調節を介して表現型に関与しているかを定量的に評価しました。

図2. ダイナミックeQTL解析の概要
さらに、HLA多型を含むゲノムワイドな生殖細胞系列変異とTCR/BCRレパトアの関連を解析・カタログ化しました。特にCOVID-19状況下のCD8陽性T細胞では、HLAクラスI遺伝子型により異なるTCRレパトアが誘導される可能性が示されました。COVID-19重症化PRSは、COVID-19状況下かつ細胞種特異的に、トランスクリプトームのみならずプロテオームにも影響を及ぼすことが明らかとなりました。腸内微生物叢菌量は、PBMCの細胞種組成に影響を与えていることが示され、これらの関連はシングルセル解像度の解析だからこそ初めて捉えることが可能となった現象でした。
体細胞変異に関しては、全ゲノムシーケンスとSNPタイピングの両方を用いることで、mCA、LOY、ミトコンドリア・ヘテロプラスミーを正確に定義しました。事前に同定した各サンプルが有する体細胞変異情報をシングルセル空間に投影することで、単一細胞解像度で変異細胞を同定、COVID-19状況下および細胞種特異的な変異の集約傾向の可視化に成功しました(図3)。さらに、同一個体内における変異細胞と正常細胞の比較から、mCAとLOYがCOVID-19重症化に寄与する分子メカニズムを明らかにしました。

図3. 体細胞変異の同定とシングルセル空間への投影解析の概要
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、日本人集団初の免疫細胞シングルセルアトラス「OASIS」の構築のみならず、様々なヒトゲノム変異・プロテオーム・メタゲノムといった多層オミクス情報をシングルセル空間に投影する新たな解析フレームワークを提示した点で、疾患病態解明から個別化医療の実現に至る広範な展開が期待される、非常に先進的な成果と考えられます。GWASで同定された疾患関連遺伝子変異のより高解像度な機能的解釈、免疫細胞の個人内・個体間多様性の理解、さらにはウイルス感染症や自己免疫疾患などの病態解明においても、本リソースと開発された解析手法は、今後の医学研究の強力な基盤となることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2025年7月28日(月)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Genetics」(オンライン)に掲載されました。【タイトル】 “Deciphering state-dependent immune features from multi-layer omics data at single-cell resolution”
【著者名】Ryuya Edahiro1-3,#†, Go Sato1,3,4,#, Tatsuhiko Naito1,3, Yuya Shirai1,2,5, Ryunosuke Saiki6, Kyuto Sonehara1,3,7, Yoshihiko Tomofuji1,3,7, Kenichi Yamamoto1,8,9, Shinichi Namba1,3,7, Noah Sasa1,3,10, Genta Nagao7,11, Qingbo S Wang1,7, Yugo Takahashi1, Takanori Hasegawa12, Toshihiro Kishikawa1,10,13, Ken Suzuki1,14, Yu-Chen Liu15, Daisuke Motooka15-17, Ayako Takuwa15, Hiromu Tanaka11, Shuhei Azekawa11, Japan COVID-19 Task Force*, Ho Namkoong18, Ryuji Koike19, Akinori Kimura20, Seiya Imoto21, Satoru Miyano12, Takanori Kanai22, Koichi Fukunaga11, Mamoru Uemura4, Takayoshi Morita2,23, Yasuhiro Kato2,23, Haruhiko Hirata2, Yoshito Takeda2, Yuichiro Doki4, Hidetoshi Eguchi4, Daisuke Okuzaki15-17,24,25, Shuhei Sakakibara26,27, Seishi Ogawa6,28, Atsushi Kumanogoh2,17,23-25,29,† and Yukinori Okada1,3,5,7,30,†
【所属】
1. 大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学
2. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
3. 理化学研究所 生命医科学研究センター システム遺伝学チーム
4. 大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学
5. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 免疫統計学
6. 京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学
7. 東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学
8. 大阪大学大学院医学系研究科 小児科学
9. 大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻
10. 大阪大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
11. 慶應義塾大学医学部 内科学教室(呼吸器)
12. 東京医科歯科大学 M&Dデータ科学センター
13. 愛知県がんセンター病院 頭頸部外科
14. 東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科
15. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC) ヒト免疫学(シングルセルゲノミクス)
16. 大阪大学微生物病研究所 ゲノム情報解析センター
17. 大阪大学先導的学際研究機構(OTRI) 生命医科学融合フロンティア研究部門
18. 慶應義塾大学医学部 感染症学
19. 東京医科歯科大学 健康医科学イノベーション開発研究センター(HeRD)
20. 東京医科歯科大学 研究推進機構
21. 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 医療数理情報学分野
22. 慶應義塾大学医学部 内科学教室(消化器)
23. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 感染病態
24. 大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)
25. 日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業(CREST)
26. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 免疫統計学
27. 慈慶大学保健医療学部 医療安全管理学研究科
28. 京都大学 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)
29. 大阪大学 先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)
30. 大阪大学 ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(WPI-PRIMe)
(†責任著者、#同等貢献、*コロナ制圧タスクフォース研究グループ全員のリストは論文中に記載)
DOI:10.1038/s41588-025-02266-3
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、日本医療研究開発機構–戦略的創造研究推進事業(AMED-CREST)事業、JSPS科研費、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業、武田科学振興財団、大阪大学大学院医学系研究科バイオインフォマティクス・イニシアティブ、大阪大学先導的学際研究機構(OTRI)、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)、AMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル 研究開発拠点群大阪府シナジーキャンパス(大阪大学ワクチン開発拠点)」(JP223fa627002)、理化学研究所科学研究基盤モデル開発プログラム(TRIP-AGIS)、小野薬品がん・免疫・神経研究財団、日本応用酵素協会の支援を受けて行われました。
大阪大学 研究