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京都大学 研究Discovery Saga
2025年7月3日

可逆なシステムにおいて時間の矢を持つのは何故か

―ある時間反転対称性を持つ系からアナソフ性の証明へ―

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学
【Sagaキーワード】
アルゴリズム/機械学習/情報学/人工知能(AI)/数値積分/多様体/離散化/ハミルトン系/時間反転対称性/測地線/対称性/統計力学/不可逆性/カオス/予測可能性/力学系/熱力学/地震予知/物理モデル
In other languages English この研究の主な対象者
企業・研究者の方
公開日

概要

梅野健 情報学研究科教授、大久保健一 同博士課程学生(現:公立諏訪東京理科大学講師)らの研究グループは、可逆なシステムにおいて時間の矢を持つのは何故かを明らかにする具体的な物理モデルを構成することに成功しました。一般に時間反転対称性という性質を持つシステムの不可逆性を示すことは、時間反転対称性を持つミクロなニュートン力学から熱力学第二法則というマクロな不可逆性の起源は何かを問う19世紀後半のボルツマンによる統計力学創設以来の、物理学の未解決問題(時間の矢の問題)の一つでした。本研究グループは、AIアルゴリズムでも使われている時間反転対称性を保ったまま時間の離散化をする2次のシンプレクティック数値積分法(リープフロッグ法)を用いて時間反転対称性を持つ物理モデルを構成し、あるパラメータの条件で、そのモデルから導出できる力学系が唯一の平衡状態(物理的測度)に収束するという性質を持つアナソフ性という性質を持つことを証明しました。このアナソフ性により、唯一の平衡状態に収束するという意味で不可逆性を厳密に証明することになります。今までビリヤードや負曲率の多様体上の測地線といった系のみにおいてこのアナソフ性が示されてきましたが、今回の様に運動エネルギーとポテンシャルエネルギーからなる普遍的な形式を持つ系から導出される力学系のカオス性(アナソフ性)を証明したのは初めてです。この結果は、今後、AI・機械学習における時間の矢の問題という新しい問題を数理的に解き明かし、更には21世紀以降の次世代AIにおけるより効率的なカオス・サンプリング法を考案するヒントになると期待されます。
 本研究成果は、2025年7月1日に、国際学術誌「Chaos」にオンライン掲載されました。


本研究の概念図
研究者のコメント 「時間の矢の問題というのは、単に古い物理の未解決問題に関わるだけではなく、実は情報学における、暗号、システムの予測可能性の本質的な問題、更にはAIにおけるサンプリングの問題といった現代的な問題にも深く関わってくると考えております。研究開始から約30年という不可逆性(時間の矢)を今の瞬間噛み締め、これからの時間は、AIとカオスの融合による抜本的に新しいAIアルゴリズムの構築や、現在未解決である短期地震予知の問題(自然界の予測可能性の問題)に挑戦していきたいと考えております。」(梅野健)
「今回の論文では、閉じたトーラス上の具体的ハミルトン系から導かれたシンプレクティック写像がアノソフ写像であることを証明し、Lebesgue測度が唯一の平衡測度・唯一のSRB測度・物理測度となることを示せました。この成果をもとに、時間の矢の問題に関する研究をより深めていきたいと考えています。」(大久保健一)

詳しい研究内容について

可逆なシステムにおいて時間の矢を持つのは何故か―ある時間反転対称性を持つ系からアナソフ性の証明へ―

研究者情報

研究者名 梅野 健
京都大学 教育研究活動データベース
研究者名 大久保 健一 Researchmap

関連部局

情報学研究科