猫の難病・腎アミロイドーシスと遺伝子多型の関係性を発見!
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
質量分析/獣医学/組織化学/アミノ酸配列/アルギニン/尿細管/遺伝子解析/炎症性疾患/肝不全/血清/糸球体/腎不全/組織化/病理/病理学/アミノ酸/アミロイド/ラット/基底膜/腎臓/脾臓/遺伝子/抗体/難病/免疫組織化学
概要
国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の村上智亮准教授らの研究チームは、全身性AAアミロイドーシスで亡くなった5例の雑種猫を病理学的に解析し、腎臓内におけるアミロイド沈着の分布が、アミロイドの材料となる血清アミロイドA(SAA)タンパク質の遺伝子多型と相関していることを明らかにしました。原因タンパク質の配列の違い(多型)が、アミロイドの臓器内分布に差をもたらすことが証明されたのは、今回が初めてです。臓器内での沈着分布の違いは臨床症状に強く関連することから、本研究成果は、遺伝子解析によるアミロイド沈着分布予測や治療対象の選定への展開が期待されます。本研究成果は、Scientific Reports(7月1日付)に掲載されました。
論文タイトル:Polymorphisms in SAA alter intrarenal amyloid distribution of AA amyloidosis in cats
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-07983-7
現状
アミロイドーシスは、生体由来のタンパク質が異常に折り畳まれ、「アミロイド」と呼ばれる線維状物質となってさまざまな組織に沈着し、機能障害を引き起こす疾患グループです。原因となる蛋白質の違いによって分類され、その中でもAAアミロイドーシスは、炎症などに伴って産生される血清アミロイドA(SAA)タンパク質が異常に凝集・沈着することによって発症し、動物および人において最も一般的なアミロイドーシス病型のひとつです。
猫のAAアミロイドーシスでは、主に肝臓・脾臓・腎臓などの臓器にアミロイドが広く沈着し、臓器障害を引き起こします。口内炎などの炎症性疾患に伴い進行性にアミロイドが沈着し、肝不全や腎不全で亡くなりますが、現在のところ治療法は確立されておらず、難治性疾患に位置付けられています。腎臓では、糸球体、尿細管周囲、腎乳頭など異なる部位に沈着し、沈着部位に応じた症状を引き起こすことが知られていますが、沈着部位の違いが生じる要因はこれまで明らかになっていませんでした。
研究体制
本研究は、東京農工大学大学院農学府共同獣医学専攻の小林夏海氏、同大学院農学研究院動物生命科学部門の金田正弘准教授、日本大学大学院獣医学研究科獣医学専攻の池田光宏氏および近藤広孝准教授、東京農工大学大学院農学府共同獣医学専攻の岩出進氏(卒業生)、東京農工大学スマートコアファシリティー推進機構の伊藤喜之特任准教授および久田美貴研究員、東京農工大学農学部共同獣医学科の加藤柚香氏(卒業生)、同大学大学院農学府共同獣医学専攻のNiki Sedghi Masoud氏、株式会社エム・エル・ティー病理診断部の野村耕二氏、わたなべ動物病院(アニコムグループ)の常安麻知江氏および赤嶺友子氏、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の村上智亮准教授により実施されました。また、本研究はJSPS科研費(23H02380)、JST産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)の助成を受けて実施されました。
研究成果
研究チームはまず、日本国内で亡くなった雑種猫5例について、腎臓を中心とした病理組織学的解析を行いました。その結果、すべての個体で糸球体および腎乳頭にアミロイド沈着が認められた一方、髄質部分の沈着パターンには顕著な個体差が見られました。この髄質における沈着の違いが、どのような因子によって生じるのかを明らかにするため、研究チームはアミロイド前駆タンパク質であるSAAの遺伝子配列に着目しました。各個体のSAA遺伝子を解析したところ、6カ所でアミノ酸配列の違いを伴う複数の遺伝子多型が確認されました。研究チームは、それらSAA多型のうち、45番目のアミノ酸がグルタミン(SAAQ45)かアルギニン(SAAR45)いずれかのSAAタンパク質を発現するかに着目し、SAAQ45あるいはSAAR45を特異的に認識する抗体を用いた免疫組織化学解析、および腎内の各領域から回収したアミロイド沈着物の質量分析を行いました。その結果、SAAQ45に由来するアミロイドは腎皮質の糸球体や乳頭部を中心として沈着しており、SAAR45由来のアミロイドは髄質の尿細管基底膜に沈着していることが明らかとなりました(図1)。
猫は両親からいくつかのSAA遺伝子を受け継ぎます。興味深いことに、SAAQ45とSAAR45の両方を発現する個体では、それぞれのアミロイドが別々に沈着していました。本研究成果は、原因タンパク質の一次構造(アミノ酸配列)の違いが病変の局在を規定するという、アミロイドーシスの病態理解において極めて重要な知見です。

45番目にグルタミンを有するSAAから生じたアミロイド(AA with Q45)は、腎臓の糸球体Glomeruliと腎乳頭部Papillaに沈着します(左側のルート)。一方、45番目にアルギニンを有するSAAから生じたアミロイド(AA with R45)は、腎臓の髄質Medullaと乳頭部Papillaに沈着します(右側のルート)。
今後の課題
猫のAAアミロイドーシスでは、臓器全体にわたって沈着の程度にばらつきが見られますが、その分布パターンがどのように臨床症状へ影響するかは依然明らかになっていません。腎臓の糸球体、髄質、乳頭といった各構造は、それぞれ異なる機能を担っているため、どの部位に障害が生じるかにより、症状や病勢が大きく異なると考えられます。今後、アミロイドの沈着部位を生前から予測・評価する技術が確立されれば、猫の難病であるAAアミロイドーシスに対する診断の精度向上や個別化された予防医療の実現につながると期待されます。
問い合わせ先
◆研究に関する問い合わせ◆東京農工大学大学院農学研究院
動物生命科学部門 准教授
村上 智亮(むらかみ ともあき)
TEL:042-367-5883
E-mail:mrkmt(ここに@をいれてください)cc.tuat.ac.jp
URL:http://web.tuat.ac.jp/~tatlvt/
プレスリリース(PDF:504.8KB)
関連リンク
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東京農工大学 伊藤喜之特任准教授研究者プロフィール
東京農工大学 村上智亮准教授研究室WEBサイト
村上智亮准教授、金田正弘准教授が所属する 東京農工大学農学部共同獣医学科
東京農工大学 研究