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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年6月14日

がんの栄養経路を絶つ革新的精密医療を開発

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域化学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
産学連携/アミド/人工核酸/生物有機化学/ヒストン/生合成/アンチセンス/インターフェロン/抗腫瘍免疫/細胞間相互作用/微小環境/分子標的療法/リンパ球/生理機能/分子標的/腫瘍微小環境/線維芽細胞/RNA/がん治療/スクリーニング/メチル化/核酸医薬/抗腫瘍効果/腫瘍免疫/創薬/遺伝子/分子標的薬

腫瘍微小環境の制御による新たな治療戦略

2025-6-10●生命科学・医学系医学系研究科特任教授(常勤)石井 秀始

発表のポイント

腫瘍(がん)組織の要となるニコチン酸アミドという代謝経路を標的とすることで、腫瘍の増殖を抑制する新しい分子標的薬を開発。
大阪大学の核酸医薬の技術により、人工的な鋳型(アンチセンス)を用いて標的遺伝子をピンポイントで精密に制御する画期的な療法をデザイン。代謝経路の標的化により腫瘍組織内の線維芽細胞(CAF)の生存と進展を抑制し、また免疫担当細胞の疲弊という悪循環を断ち切ることが可能に。
細胞内の標的分子を迅速かつ精密に制御できる方法として、さまざまな難治性疾患への応用に期待。

発表概要

大阪大学大学院医学系研究科の原知明特任助教(常勤)、孟思昆特任助教、石井秀始特任教授(常勤)(疾患データサイエンス学)らの研究グループは、大阪大学大学院薬学研究科の小比賀聡教授、大澤昂志助教(生物有機化学)、笠原勇矢プロジェクトリーダー(医薬基盤・健康・栄養研究所人工核酸スクリーニングプロジェクト)の研究グループとの共同研究で、腫瘍組織における代表的な特徴の一つであるエピジェネティックな機構を制御する鍵として、がん関連線維芽細胞(CAF)に高発現するニコチン酸アミドメチル化転移酵素(NNMT)を精密に制御する標的核酸医薬を開発しました。
研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科で開発された核酸医薬技術を応用し、CAF細胞内のNNMTを人工的な鋳型(アンチセンス)を用いて精密に標的化することを前臨床の動物試験で明らかにし、難治がんに対する抗腫瘍効果を示すことを明らかにしました。
NNMTを精密に標的化することで、CAFの生存と進展を抑制するだけでなく、CAFが引き起こす免疫担当細胞の疲弊といった悪循環を断ち切ることが可能となりました(図1)。
この研究は、細胞内の標的分子を迅速かつ精密に制御できる方法として、さまざまな難治性疾患へ応用することが期待されます。



図1. (NNMTi による NNMT 代謝の阻害は抗腫瘍効果を示す)

研究の背景

がんの代表的な特徴であるエピジェネティックな機構は、ヒストンやDNAのメチル化を通じて遺伝子の転写に関わり、RNAのメチル化では、翻訳に関わります。さらに、その他の蛋白やさまざまな分子のメチル化を通じて、生理機能の活性化に関わることが知られています。
これらのメチル化は、単一炭素代謝経路としてSアデノシルメチオニン(SAM)の生合成によって促進されていますが、腫瘍組織では、このメチル化全体が異常に活性化しており、正常組織にも作用することが問題で、治療を行うためには、がんと正常な細胞を切り分けることが重要でした。
また、NNMTによりメチル化されたメチル化ニコチン酸アミド(MNAM)は、免疫担当細胞のインターフェロンの生成を阻害するため、抗腫瘍免疫が十分に機能しないという悪循環がありました。
そのため、腫瘍微小環境を全体として捉えて、ピンポイントで攻撃する新しい分子標的療法の開発が期待されてきました。

研究の内容

本研究では、CAFで特異的な蛋白(FAP)を目印とすることで、CAFで活性化しているNNMTを、精密に標的化し、腫瘍全体を見据えながら腫瘍微小環境をピンポイントで改善することを目指しました。
研究グループは、CAFにおけるNNMTを阻害することで、MNAMの悪循環を断ち切り、疲弊化したリンパ球を再活性化し、腫瘍の縮退及びがんの再発阻止を目指し、FAPを目印にNNMT遺伝子を狙う人工的鋳型(アンチセンス)を用いた核酸医薬を配列のスクリーニングおよび核酸の人工合成の手法により開発しました。
この人工的鋳型アンチセンス薬は、前臨床動物試験で腫瘍微小環境を改善、抗腫瘍効果を発揮する良好な結果が示され、標準的ながん治療薬と合わせて、がんの「完全治癒」を目指すことが期待されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

複合的な細胞間相互作用の中で、ピンポイントで特定の細胞で任意の遺伝子を標的化できる人工鋳型核酸医薬品の精密な送達技術を開発しました。そこから得られる診断や創薬の可能性を広げ、画期的な新技術を生み出す基盤を構築できました。これらはこれまで制御不能であった代謝経路の遮断を可能としたことから、がんの「完全治癒」を目指す基盤研究となります。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Molecular Therapy - Nucleic Acids」(CELL PRESSのパートナー誌)に、6月10日(火)に公開されます。
https://www.cell.com/molecular-therapy-family/nucleic-acids/home
タイトル:“Antisense oligonucleotide targeting nicotinamide N-methyltransferase exhibits antitumor effects”
Tomoaki Hara,1 Sikun Meng,1 Yuuya Kasahara,2 Takashi Osawa,3 Daisuke Motooka,4 Hiromichi Sato,1,5 Yasuko Arao,1 Yoshiko Saito,1 Kana Inoue,1 Yumiko Hamano,1 Yuichiro Doki,5 Hidetoshi Eguchi,5 Satoshi Obika,3 and Hideshi Ishii1
1. Department of Medical Data Science, Center of Medical Innovation and Translational Research, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, 565-0871, Japan.
2. National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition, Osaka, 567-0085, Japan.
3. Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University, Osaka, 565-0871, Japan.
4. Genome Information Research Center, Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University, Osaka, 565-0871, Japan.
5. Department of Gastroenterological Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, 565-0871, Japan.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.omtn.2025.102548
本研究の成果は、共同研究講座の産学連携の活動の一環で行われました。研究の一部は、科研費(19K22658, 20H00541, 21K19526, 22H03146, 22K19559, 23K19505, 23K18313等)・三菱財団・高橋産業経済研究財団・高松宮妃殿癌研究基金等の支援を受けて行われました。

参考URL

石井秀始特任教授(常勤)研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/fcdd81a7260c9252.html