[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

大阪大学 研究Discovery Saga
2025年6月12日

跳ねるおもちゃがパチンと鳴る仕組み

次世代のソフトロボット技術に活用

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学
【Sagaキーワード】
性能予測/最適化/多様体/幾何学/計算機シミュレーション/相転移/数値シミュレーション/空気圧/材料特性/シミュレーション/ダイナミクス/パターニング/ロボット/材料力学/大変形
2025-6-10●工学系基礎工学研究科教授垂水 竜一

発表のポイント

半球状シェル構造が跳躍する仕組みを明らかにしました.
跳躍過程において,基盤との接触状態が跳躍性能の予測に重要であることがわかりました.
接触状態が遷移する様子を捉えることで最大跳躍高さや跳躍条件を予測することに成功しました.
ソフトロボットの構成要素を詳細に解析することで,その性能予測が可能になる事が示唆されます.

発表概要

慶應義塾大学大学院理工学研究科の阿部宝(研究当時修士課程2年),中原行健(博士課程1年),同大学理工学部機械工学科の高橋英俊准教授,石上玄也教授,佐野友彦専任講師,大阪大学大学院基礎工学研究科の橋口勲武(博士課程3年),小林舜典助教,垂水竜一教授らによる研究グループは,薄い半球状のシェル構造が跳躍する仕組みを明らかにしました.
近年,ソフトロボットが開発されていますが,ソフトロボットの挙動は材料特性や環境との複雑な相互作用に影響されるため,性能の予測が困難であり,経験的な設計が必要でした.本研究では,跳躍するおもちゃ(ポッピンアイ)に着想を得て,跳躍ソフトロボットの基本構造の1つである半球状シェル構造の跳躍性能を解明しました.跳躍性能を予測式によって理論的に計算できる本研究成果は,未知環境におけるソフトロボットの設計指針に示唆を与えることが期待されます.本研究は2025年6月9日に国際科学雑誌「Advanced Robotics Research」で公開され,刊行号の裏表紙を飾りました.

研究の背景

柔らかな構成要素をもつソフトロボットは,柔軟な変形が可能であるため,複雑な動作や,人間との共同作業の実現が期待されています[1].ソフトロボットを作動させるメカニズムの1つとして,飛び移り(スナップ)座屈が利用されています.飛び移り座屈とは,安定状態にある構造物が,不安定な状態を飛び越えて別の安定状態へと,音を立てて素早く変形する現象です.身近なものでは,湯沸かし器のスイッチやヘアクリップなどに利用されています.飛び移り座屈を起こす構造として,テニスボールなどを切断した形状である半球状シェル構造が挙げられます[2].半球状シェルを裏返して置くと,飛び移り座屈を起こして自然と元の形状へと戻ります(図1).おもちゃであるポッピンアイ(図2, パッチンカップ, Jumping popper toyとも呼称)はこの性質を利用し,パチンと音を鳴らして(スナップ)跳躍します.最近では,半球状シェルを利用して跳躍するソフトロボットの研究開発が進められており,軽量で柔軟性に富む跳躍機構として注目を集めています[3,4].しかしながら,ソフトロボットの動作の予測は一般に実験や計算機シミュレーションによる膨大な労力を必要とします.半球状シェルのように単純な形状であったとしても,跳躍する際にはシェルが大変形するため,その動作の予測には材料特性,幾何形状,接触力学を適切に取り扱う必要があります.すなわち,目的に最適なソフトロボットの設計には実験やシミュレーションによるパラメータの探索が要求されていました.



図1. シミュレーションで得られる球状シェルの典型的な跳躍挙動.反転形状から元の形状へと戻り跳躍する.



図2. ポッピンアイの写真.

研究の内容

本研究ではおもちゃであるポッピンアイに着想を得て,ソフトロボットの構成要素の1つである半球状シェル構造に着目し,その跳躍ダイナミクスを詳細に研究しました.シリコーンゴム製の半球状シェルを様々な幾何形状で作製し,その変形を空気圧で制御する実験系を確立しました.シェルの素早い変形挙動を同時に複数測定できるように,いくつものセンサを用いて測定装置を組み立てました.また,実験結果を詳細に理解するためにMPMを用いた数値シミュレーションコードを開発することで,シェルが跳躍する瞬間の複雑な大変形挙動を再現することに成功しました.
シェルを頂点から凹ませた状態で平板上に置くと,シェルは元の半球形状へと復元し,平板を弾いて跳躍します.凹ませたシェルと平板間は,接地した際に凹んだシェルの縁のみでリング状に接します,シェルが半球形状へと復元する過程でリング状(線状)の接触半径が徐々に減少していきます.そして,飛び移り座屈が生じる瞬間,シェルの頂点付近が平板と接触し,接触形状がディスク状(面状)へと遷移します.このシェルと平板の接触状態がリングからディスクへと遷移する転移現象こそが跳躍ダイナミクスを特徴づけることが明らかになりました.さらに転移前後のシェルの変形の振る舞いを理論的に解析することによって,シェルの跳躍高さの予測が可能になりました.跳躍高さは2つの異なる寄与,持ち上がる寄与とスナップによる寄与に分けられます.前者は幾何学的な考察から,後者はシェルの接触力学から,それぞれ跳躍高さを予測できます.理論的に得られた予測式は実験,シミュレーション結果と整合することが示され,半球状シェルの跳躍性能を明らかにしました.

今後の展開

半球状シェルは単純な形状をしていますが,その跳躍ダイナミクスの背後には弾性,幾何形状,平板との接触力学の密接な競合が見られます.本研究では,半球状シェルの力学と幾何学に着目することで,その跳躍性能を解明しました.ソフトロボットの構成要素の1つである半球状シェル構造の跳躍性能を明らかにしたことで、経験則によらない大変形を伴うソフトロボットの性能予測を可能にします.さらに,得られる性能予測は,未知の環境におけるソフトロボットの性能や形状の最適化に対する指針を与えることが期待されます.

参考文献

[1] D. Rus and M.T. Tolley,“Design, fabrication and control of soft robots,” Nature vol. 521, pp. 467–475 (2015)
[2] B. Audoly and Y. Pomeau,Elasticity and Geometry: From haircurls to the non-linear response of shells, Oxford Univ. Press, 2010.
[3] B. Gorissen, D. Melancon, N. Vasios, M. Torbati, and K. Bertoldi, “Inflatable soft jumper inspired by shell snapping”,Science Robotics, vol. 5, 5 2020.
[4] N. W. Bartlett, M. T. Tolley, J. T. B. Overvelde, J. C. Weaver, B. Mosadegh, K. Bertoldi, G. M. Whitesides, and R. J. Wood, “A 3d-printed, functionally graded soft robot powered by combustion”,Science, vol. 349, pp. 161–165, 7 2015.

論文情報


論文タイトル:Snap and Jump: How Elastic Shells Pop Out
著者名:Takara Abe, Isamu Hashiguchi, Yukitake Nakahara, Shunsuke Kobayashi, Ryuichi Tarumi, Hidetoshi Takahashi, Genya Ishigami, Tomohiko G. Sano
掲載誌:Advanced Robotics Research
doi:10.1002/adrr.202500041
本研究は、科研費 基盤研究(A)「ソフトロボットのための高解像度磁化パターニング」(24H00299),戦的研究(開拓)「バイオミメティック多様体の材料力学」(23K17317),創発的研究支援事業「高速計算と精密実験がひもとく幾何学材料の相転移機構の解明」(JPMJFR212W),科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(JPMJFS2125)の支援を受けて実施されました.