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東京農工大学 研究Discovery Saga
2025年5月28日

蚊の皮膚(外皮)ができるしくみを分子レベルで解明

―新しい蚊の防除技術への応用に期待―

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学化学生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
化学物質/磁気共鳴/分子構造/芳香族/固体NMR/反応機構/芳香族化合物/結晶構造解析/トンネル/耐久性/バイオマテリアル/リン酸/結晶構造/アルデヒド/アセトアルデヒド/酵素反応/デング熱/核磁気共鳴/遺伝子

概要

東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門のヴァヴリッカ・クリストファー准教授、中澤靖元教授、同大学学術研究支援総合センター 機器分析施設の野口恵一教授らは、海南大学の研究者らとの共同研究により、デング熱などを媒介する蚊として知られるネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)の外皮(クチクラ)の構造維持に関わる新たな分子メカニズムを解明しました。本研究では、酵素3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド合成酵素(DHPAAS)注1が、反応に必須の化学物質であるピリドキサール5'-リン酸に酸素を供給することで、クチクラ構造の形成に寄与している可能性が示されました。DHPAASの結晶構造解析により、酸素供給を助ける疎水性トンネル構造の存在が明らかになり、DHPAASが蚊の生存やクチクラの組み立てに関与する新たな仕組みが示唆されました。
本研究成果は、Nature Communications(5月14日付)にオンライン掲載されました。
論文名:3,4-Dihydroxyphenylacetaldehyde synthase evolved an ordered structure to deliver oxygen to pyridoxal 5’-phosphate for cuticle assembly in the mosquitoAedes aegypti
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-025-59723-0

背景
 蚊のクチクラ(外皮)は、体の構造維持や生存に不可欠な組織であり、特殊な酵素による複雑な架橋反応を介して形成されます。その特殊な酵素の一つである3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド合成酵素(DHPAAS)は、クチクラ内でL-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)を3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(DHPAA)へ変換することが知られています。しかし、DHPAASが酸素に依存して反応するメカニズムや、DHPAAに由来する化合物が昆虫のクチクラに実際に組み込まれているかどうかは、これまで実験では確認されていませんでした。

研究体制
 本研究は、東京農工大学院工学研究院生命機能科学部門のヴァヴリッカ・クリストファー准教授、中澤靖元教授、同大学大学院工学府生命工学専攻 松本悠里氏、同大学学術研究支援総合センター 機器分析施設の野口恵一教授、中国 海南大学のQian Han教授、Chenghong Liao教授、Jing Chen博士によって実施されました。本研究の一部は、JSPS科研費(JP25K01588)、G-7奨学財団、武田科学振興財団の助成を受けて行われました。

研究成果

 本研究では、国際共同研究チームが、DHPAASが蚊(Aedes aegypti)の腹部の構造維持、クチクラ形成、および生存に不可欠であることを遺伝子ノックダウン実験により明らかにしました。さらに、昆虫のDHPAASの結晶構造を世界で初めて解明し、活性部位内のピリドキサール5'-リン酸に酸素を供給すると考えられる疎水性トンネル構造の存在を明らかにしました。この発見は、L-DOPAからDHPAAへの直接変換にDHPAASがどのように関与するかを説明する新しいメカニズムを提示するものであり、クチクラ形成におけるDHPAASの酸素依存的な触媒メカニズムに対する新たな理解を提供しました(図1)。また、蚊のクチクラの固体NMR注2解析により、DHPAA由来と考えられるカテコール環の炭素に対応するピークが検出されたことから、蚊のクチクラ中にDHPAA由来化合物が組み込まれていることを示唆する知見が得られ、DHPAAS活性とクチクラの分子レベルでの架橋形成の関連が示されました(図2)。

今後の展開

 本研究チームは、昆虫のクチクラ形成に関わる酵素や構造の分子レベルでの理解をさらに深め、耐久性に優れたバイオマテリアル形成の生化学的プロセス解明に取り組む予定です。本研究で得られた構造に関する知見は、酸素に依存した酵素反応を活用して付加価値の高い芳香族化合物を生産する技術の開発にも応用可能です。さらに、今回の成果は、今後の蚊の制御技術において新しい標的(ターゲット)を見つける手がかりとなることが期待されます。
用語解説
注1 )DHPAAS(3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド合成酵素)
L-DOPAを反応性アルデヒドであるDHPAAに変換する酵素で、昆虫のクチクラ(外皮)架橋に関与すると考えられている。
注2 )固体NMR(核磁気共鳴)法
昆虫のクチクラのような複雑な固体材料の分子構造を解析する手法。従来の溶液NMRや結晶構造解析が困難な、不均一構造の局所的な構造解析に有効。



図1:DHPAAS(濃緑)とL-DOPA脱炭酸酵素(DDC;濃灰)の結晶構造および反応機構。DHPAASの活性部位には、酸素が通ると考えられるトンネル構造(青い球)が観察されました。 Nat Commun 16, 4486 (2025)を基に作成。


図2:ネッタイシマカ(Aedes aegypti)のクチクラを固体NMRで解析した結果、DHPAA由来と考えられるカテコール環の炭素に対応するピークが観察されました。 Nat Commun 16, 4486 (2025)から転載。

 

  ◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 准教授
CHRISTOPHER J. VAVRICKA(ヴァヴリッカ・クリストファー)
 E-mail:chris(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
 
プレスリリース(PDF:509.5KB)

関連リンク

東京農工大学 ヴァヴリッカ・クリストファー准教授研究者プロフィール
東京農工大学 中澤靖元教授研究者プロフィール
東京農工大学 野口恵一教授研究者プロフィール
東京農工大学 ヴァヴリッカ・クリストファー准教授研究室WEBサイト
東京農工大学 中澤靖元教授、野口恵一教授研究室WEBサイト
中澤靖元教授、野口恵一教授、ヴァヴリッカ・クリストファー准教授が所属する 東京農工大学工学部生命工学科