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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年5月27日

稲妻の衝突が作り出す放射線バースト

金沢での多波長観測で発生メカニズムに迫る

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
アンテナ/オープンアクセス/加速器/衛星/可視光/情報提供/センサー/マイクロ/人工衛星/放射線
2025-5-22●自然科学系工学研究科講師和田 有希

発表のポイント

世界的に珍しい冬の雷が多発する金沢市で、放射線・電波・可視光による雷放電の集中観測を実施
雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際の強い電場によって、「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる放射線バーストが発生することを解明
発生源を特定したことで、雷が「加速器」となって放射線を作り出すメカニズムの解明に期待

発表概要

大阪大学大学院工学研究科の和田有希講師、近畿大学理工学部の森本健志教授、岐阜大学工学部のウ・ティン准教授らの研究グループは、石川県金沢市で冬に発生する雷の放射線・電波・可視光を用いた多波長観測を実施し、雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際に「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる雷放電と同期した放射線バーストが発生することを世界で初めて明らかにしました。
近年の研究により、雷放電や雷雲から放射線が発せられていることが明らかになっています。地球ガンマ線フラッシュは、雷放電に同期して数十マイクロ秒という極めて短時間の放射線を発生させる現象です。雷放電が「加速器」となって、大気中の電子を光速近くまで加速させることで発生すると考えられていますが、雷放電のどのようなプロセスが放射線を発生させるかといったメカニズムはこれまで解明されていません。
研究グループは、冬季に金沢市の金沢観音堂テレビジョン送信所への落雷が多発することに着目し、最新の機器を集めた集中観測を実施したところ、2023年1月30日10時13分29秒 (日本時間) に地球ガンマ線フラッシュの検出に成功しました。放射線・電波・可視光による観測によって、雷雲から地上に向けて下降する放電路と、送信所の鉄塔から雷雲に向かって上昇する放電路を検出し、それらが衝突して落雷に至る直前に、地球ガンマ線フラッシュが発生していることを突き止めました。これにより雷放電がどのようにして放射線を発生させるか、その詳しいメカニズムの解明が期待されます。
本研究成果は、米国科学振興協会が出版するオープンアクセス誌「Science Advances」に、5月22日(木)午前3時(日本時間)に掲載されました。

図1. 金沢市のテレビジョン送信所から上昇する放射線バーストを発生させた雷放電

研究の背景


雷活動は我々にとって身近な現象であり、雷から発せられる強烈な光や電波は、これまで半世紀以上にわたって観測されています。1990年代からの研究により、雷雲や雷放電から放射線が発せられていることが発見され、1991年には、アメリカ航空宇宙局 (NASA) の人工衛星が、雷放電と同期して地球から宇宙に向かって放出される放射線バースト「地球ガンマ線フラッシュ」を発見しました。雷放電がどのようなメカニズムで放射線を作り出すのか、その詳細は未だ明らかになっていませんが、雷雲や雷放電には高い電圧がかかっているため、濃密な大気中であっても電子が光速近くまで加速され、X線・ガンマ線といった放射線が作り出されると考えられており、自然界で発生する天然の加速器として注目を集めています。
雷の多くは夏に発生しますが、北陸地方の日本海沿岸部では世界的に珍しく、冬に雷が多発します。冬季雷は一般的な夏季雷と比較して雷雲が発達する高度が低く、地表付近で雷活動が発達することや、一発あたりのエネルギーが大きい落雷が発生しやすいという特徴があります。これらの特徴により、北陸地方の冬季雷は世界的にみても絶好の雷の観測サイトとなっています。これまで多くの地球ガンマ線フラッシュは人工衛星によって宇宙から観測されていますが、本グループを含む複数のグループが北陸地方で地球ガンマ線フラッシュを地上から観測することに成功しています。
雷放電がどのようなメカニズムで放射線を作り出すのか、その詳細は未だ明らかになっていません。人工衛星は地球全体を観測できる一方、雷放電の詳細までを観測することができません。また、地上観測は雷放電を細かく観測できる一方、観測範囲が狭いため地球ガンマ線フラッシュを狙い通り検出できないリスクがありました。

研究の内容

研究グループは、石川県金沢市観音堂町に位置する金沢観音堂テレビジョン送信所に着目しました。テレビジョン送信所は2本の鉄塔から構成され、2022年12月から2023年3月にかけて10例以上の雷放電を確認しています。そこでテレビジョン送信所を中心とした放射線センサー・電波アンテナ・可視光カメラを組み合わせた観測ネットワークを構築し、多波長での集中観測を実施しました。放射線センサーは地球ガンマ線フラッシュを、電波アンテナは雷雲中を進展する放電路を、可視光カメラはテレビジョン送信所への落雷を監視します。
2023年1月30日10時13分29秒 (日本時間) に、この観測ネットワークによって、テレビジョン送信所への落雷と地球ガンマ線フラッシュを検出しました。2023年1月30日は日本海上で低気圧が発達するなど雷が発生しやすい気象状況となっており、石川県内には雷注意報が発令されていました。電波アンテナでは、高度2.5 km付近で負極性の放電路 (負極性リーダー) が始まり、高度0.9 km付近まで下降して落雷に至ったことを確認しました。一方で可視光カメラでは、金沢観音堂テレビジョン送信所の石川テレビ放送本社送信所より雷雲に向かって上昇する正極性の放電路 (正極性リーダー/ 図1) を確認しました。つまり、地上と雷雲の両方から放電路が進展し、高度 0.9 km付近で衝突し、落雷に至ったと考えられます。このとき地球ガンマ線フラッシュは落雷に至る直前、わずか30マイクロ秒 (10万分の3秒) 前に検出されたことから、地球ガンマ線フラッシュは2本のリーダーが接近して衝突する直前に、リーダーの間に集中した強い電場によって発生したことを解明しました (図2)。
なお地球ガンマ線フラッシュによって地上にもたらされる放射線量は、最大で胸部X線検査1回分程度と推定されており、人体への影響はないと考えられます。

図2. 地球ガンマ線フラッシュの発生メカニズムを示す模式図

本研究成果の意義と今後の展望


本研究成果によって、世界で初めて、落雷に至る直前の下降・上昇する2本のリーダーの間という局所的な領域で地球ガンマ線フラッシュが発生していることを明らかにしました。大気は無数の原子で満たされており、その中で電子が光速近くまで加速されるのは一般的に困難です。本研究によって地球ガンマ線フラッシュの発生源が特定されたことにより、どのように電子が加速され地球ガンマ線フラッシュに至るかというメカニズムの解明が期待されます。
正極性リーダーは電波を出しにくいという特徴があり、電波での検出は困難です。一方で雲の中を進展する負極性リーダーは可視光カメラでは捉えられないため、電波で観測する必要があります。本研究は冬季に雷が頻発する金沢市のテレビジョン送信所を狙い、複数の波長・手法を組み合わせた多波長観測を行うことで、初めて成し遂げられた成果です。今後さらに観測ネットワークの拡充を予定しており、どれくらいの割合の雷放電が地球ガンマ線フラッシュを出しているのか、リーダーの衝突以外でも地球ガンマ線フラッシュが発生するのか、といったことが明らかになると期待されます。
冬季雷では夏季と比べて、エネルギーが数十倍から数百倍も大きい落雷が発生することがあり、送電設備などの損傷につながることがあります。このようなエネルギーの大きい落雷は送電鉄塔から上昇するリーダーによって引き起こされるという報告があり、今回の事例と共通しています。今後の観測によって、エネルギーの大きい落雷と地球ガンマ線フラッシュとの関係性も明らかになることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年5月22日(木)午前3時(日本時間)に米国科学振興協会が出版するオープンアクセス誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。
タイトル: “Downward Terrestrial Gamma-ray Flash Associated with Collision of Lightning Leaders”
著者名: Yuuki Wada, Takeshi Morimoto, Ting Wu, Daohong Wang, Hiroshi Kikuchi, Yoshitaka Nakamura, Eiichi Yoshikawa, Tomoo Ushio, and Harufumi Tsuchiya
DOI:https://doi.org/10.1126/sciadv.ads6906
なお、本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業21H01116、21K03681、22K14453、22H00145、24H00257、25K01013の支援を受けて行われました。観測機器の設置には石川県立金沢産業技術専門校および石川県工業試験場に協力いただいています。また金沢観音堂テレビジョン送信所への落雷について、北陸放送株式会社より情報提供いただきました。

参考URL

和田有希講師 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/f5f4e749a44d2c77.html