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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年5月27日

アデノ随伴ウイルスベクターのゲノム放出の仕組みを解明

遺伝子治療の「運び屋」、その秘密を解き明かす!

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域数物系科学化学生物学総合理工工学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
品質管理/重水素/物理化学/機能ドメイン/質量分析/持続可能/持続可能な開発/アデノ随伴ウイルス/アデノ随伴ウイルスベクター/ベクター/血清/筋萎縮/ウイルスベクター/遺伝子治療/構造変化/再生医療/細胞治療/超遠心分析/副作用/立体構造/ウイルス/ゲノム/遺伝子
2025-5-22●自然科学系工学研究科教授内山 進

発表のポイント

遺伝子治療で、治療用遺伝子を体内の細胞に届ける「運び屋」として機能するアデノ随伴ウイルスベクターが、加温によりゲノムを放出する際の仕組みを分子レベルで解明
複数の物理化学的分析手法を用いることで、カプシド(ウイルスの外殻)の一部であるVP1タンパク質のN末端領域の構造変化と、ゲノム放出が関連することを発見
ウイルスベクターの設計や安定性の評価に新たな指針を提供し、より効率的で安全性の高い遺伝子治療用ベクター開発への応用にも期待

発表概要

大阪大学大学院工学研究科の山口祐希助教、下条咲希さん(当時博士前期課程)、池田智彦さん(博士後期課程)、内山進教授らの研究グループは、遺伝子治療に使用されるアデノ随伴ウイルスベクターが、VP1と呼ばれるウイルスタンパク質のN末端の領域を加温することで立体構造を変化させ、カプシド(ウイルスの外殻)の内側にあるゲノム(遺伝子)の放出を促進することを明らかにしました。
これまで、アデノ随伴ウイルスベクターがどのようにしてゲノムをカプシドから放出するのかについては議論が分かれており、その詳細なメカニズムは解明されていませんでした。
研究グループは、全てのウイルスタンパク質(VP1、VP2、およびVP3)から構成されるウイルス粒子と、VP1およびVP2を含まずVP3だけから構成される粒子を用意し、複数の物理化学的手法を駆使して、加温した際のゲノム放出を観察しました。その結果、VP1タンパク質のN末端領域(VP1だけが持つ領域とVP1とVP2が共通して持つ領域)は折りたたまれた構造を取っていて、約55~60°Cの温度で折りたたみ構造がほどけ、カプシドの中にあるゲノムが放出されやすくなることを発見しました。さらに、この構造変化はカプシドの完全な崩壊を伴わず、ゲノムを放出した後でも形を保った粒子が存在することも明らかとなりました。
これらの成果は、アデノ随伴ウイルスベクターの構造的性質と機能の関係を深く理解する上で重要であり、より効率的で安全性の高い遺伝子治療用ベクターの開発に大きく貢献すると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Molecular Therapy Methods & Clinical Development」に、4月22日(火)(日本時間)に公開されました。

図1. VP1およびVP2を含むウイルス粒子と、含まない粒子のゲノム放出および構造変化の様子

研究の背景

アデノ随伴ウイルスベクターは、遺伝子治療において病気を治すための遺伝子を体内へ送る「運び屋」として、これまで治すことができなかった脊髄性筋萎縮症などの治療薬として使用されています。
アデノ随伴ウイルスベクターが遺伝子を体内に運ぶためには、カプシド(ウイルスの外殻)に包まれた遺伝子(ゲノム)を放出する必要があります。しかし、どのようにしてカプシドの中からゲノムが放出されるのかについては、研究者の間でも議論が分かれており、その詳細なメカニズムは解明されていませんでした。

研究の内容

研究グループは、アデノ随伴ウイルスベクターが細胞に取り込まれたときに、細胞に分解されるシステムから脱出する際に利用する機能ドメインを持っているウイルスタンパク質VP1に注目し、そのVP1の構造変化とゲノム放出の関係を調べました。
アデノ随伴ウイルスベクターの血清型の一種である「rAAV8」について、VP1の含有量(多い・少ない)が異なるウイルス粒子と、VP1およびVP2を含まずVP3だけから構成される粒子を用意し、温度を段階的に上げながら、カプシドの構造がどのように変化し、ゲノムがどのように出てくるのかを観察しました(図1)。観察には、マスフォトメトリー法や、示差走査蛍光定量法水素/重水素交換質量分析超遠心分析といった複数の分析手法を使用しました。
その結果、VP1の先端部分すなわちN末端領域が折りたたまれた状態では、ゲノムが外に出にくいこと、その部分が熱でほどけてくると、ゲノムがウイルスのカプシドから放出されやすくなることが明らかになりました。その際、カプシド表面もVP1のN末端領域の変化に伴って、構造が変化していました。また、ゲノム放出を行う際には、ウイルスの形が壊れずに、ゲノムだけが外に出ており、ウイルス粒子が、「ゲノムを放出していない粒子」、「放出したがゲノムが表面に滞在している粒子」、「放出し空になった粒子」の3つの状態をとることが明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、アデノ随伴ウイルスベクターがゲノムをどのように放出するかというメカニズムを分子レベルで明らかにしたものです。
この成果により、より効率的で副作用の少ないウイルスベクターの設計が可能になり、遺伝子治療の成功率の向上や副反応の軽減が期待されます。特に、ウイルスのタンパク質がどの温度でどのように構造を変えるかという知見は、ベクターの品質管理や安定性評価にも役立ちます。

特記事項

本研究成果は、2025年4月22日(火)(日本時間)に米国科学誌「Molecular Therapy Methods & Clinical Development」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Unfolding of viral protein 1 N-termini facilitates genome ejection from recombinant adeno-associated virus serotype 8”
著者名:Yuki Yamaguchi, Saki Shimojo, Tomohiko Ikeda, Mitsuko Fukuhara, Yasuo Tsunaka, Risa Shibuya, Mark Allen Vergara Rocafort, Ryoji Nakatsuka, Kiichi Hirohata, Tetsuo Torisu, and Susumu Uchiyama
DOI:https://doi.org/10.1016/j.omtm.2025.101480
なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「遺伝子・細胞治療用ベクター新規大量製造技術開発・再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」(助成金JP21ae0201001、JP21ae0201002、JP24se0123004h0101)の助成を受け実施されました。

参考URL

内山進 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0abc739b66a8f19e.html
山口祐希 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/c12fccc526afbfbb.html

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