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山口大学 研究Discovery Saga
2025年4月30日

アジアの超高齢社会におけるエンドオブライフ・ケアに関する学士課程の看護基礎教育について、「患者の死生観や価値観、文化的背景を理解し、それを柔軟に実践できる医療従事者を育成することの重要性」を山口大学の看護教員グループが香港大学との共同研究で示唆

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域環境学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
アセスメント/意思決定プロセス/適切性/高齢社会/シミュレーション/文献検索/心血管系/超高齢社会/医療政策/心臓/がん患者/がん看護/ケアリング/看護/看護学/看取り/緩和ケア/高齢化/高齢者/終末期/臨床研究/疼痛

 

背景

 世界では高齢化が進んでおり、65歳以上の人口は2020年の9.3%から2060年には17.8%まで増加が見込まれています。特にアジアでは急速な高齢化が進んでおり、2060年の総人口約101億人の10人に1人(12億人超)がアジアの高齢者になると予測されています(参考:United Nations 2023, conomic and Social Commission for Asia and Pacific, 2023)。
 多死社会を迎えるにあたって、人生の最終段階におけるエンドオブライフ・ケア(End-of-Life Care: EOLC)※1を充実させる必要があり、学士課程の看護基礎教育においてEOLCを教える適切な方法を模索することが極めて重要です。
 2022年度より、山口大学大学院医学系研究科(保健学専攻)の看護教員グループ(代表:山口大学大学院医学系研究科(保健学専攻)村上京子 教授)では、香港大学看護学部の看護教育研究者と「山口大学重点連携事業」による共同研究を行っており、この度、学士課程の看護基礎教育におけるEOLCの現状をまとめ、今後の課題や方策について考察しました。

発表概要

エンドオブライフ・ケアをキーワードに日本と香港において、医療や看護教育などを含めた包括的な文献検索を行った後、文献から得られた結果をもとにEOLC看護学部教育について考察をしました。
2022日本の死亡原因はがん(24.6%)、心血管系疾患(14.8%)、老衰(11.4%)の順で多く、全死亡原因の約50%を占めています。在宅における看取り(2020年)は15.7%に過ぎず、多くは病院(68.3%)、老人ホーム、長期療養型病院での死亡となっています。一方、香港の死亡原因はがん(29.3%)、肺炎(18%)、心臓病(13%)の順になっています。香港では、個人が自宅で死を迎えることが困難でかつ、老人ホーム等のケアハウスでの死亡は公的には認められておらず、9割以上が公的病院で亡くなっています。
日本では看護系学部における看護教育内容の適切性を担保するためにモデル・コア・カリキュラムが策定され、その中でEOLCが規定されています(表1)。2009年よりELNEC-J※2コアカリキュラム指導者養成プログラムが開催され、看護学部教育にも取り入れられています。
香港の看護系学部における看護教育では、「がん看護と緩和ケア」を最低16時間学ぶことが基準となっており、その内容にはがん看護の原則、緩和の原則、がん患者とその家族のケアが含まれています。また、現在では、EOLCに特化したプログラムを提供する大学院が増えており、修了には30単位が必要となっています。
終末期に希望する過ごし方について、患者の最善の利益を考え、政策、法律、ガイドライン、医療制度の枠組みを見ながら現実とのギャップを埋めていくことが必要です。本研究により、香港と日本では医療政策が異なるものの、どちらもEOLCに関する看護教育は重要であり、疼痛緩和などの身体的管理も含まれることが明らかになりました。患者の死生観や価値観、文化的背景を理解し、それを柔軟に実践できる医療従事者を育成することの重要性が示唆されました。
表1 看護学教育モデル・コア・カリキュラム
D-4-5)人生の最終段階にある人々に対する看護実践
ねらい:人生の最終段階にある人が尊厳をもって個の特性に応じた人生を送ることができるための看護実践を学ぶ。また、人生の最終段階にある人の家族に対する看護実践を学ぶ。
学修目標:
(1)人生の最終段階にある人の身体的変化について説明できる。
(2)人生の最終段階にある人の価値観や人生観、死生観を引き出し、終末期の過ごし方を考える援助関係の築き方について説明できる。
(3)人生の最終段階にある人が自分らしい人生を送ることができるために関係機関・職種と連携する重要性を理解できる。
(4)人生の最終段階にある人の疼痛のアセスメント及びコントロールの方法について理解し、苦痛緩和のためのトータルケアを説明できる。
(5)死の受容プロセスと看護の対象となる人や家族の精神的ケアについて説明できる。
(6)人生の最終段階にある人の意思決定プロセスの特徴と支援する方法を説明できる。
(7)死後の家族ケア(悲嘆のケア(グリーフケア))について説明できる。
(8)尊厳ある死後のケアの意義について説明できる。

(出典: 看護学教育モデル・コア・カリキュラム~「学士課程においてコアとなる看護実践能力」の修得を目指した学修目標~ 平成29年10月 大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会 P.41)
 本研究成果は、2024年9月24日に山口大学の英文雑誌である「Medical Science & Innovation」にオンライン掲載されました。

用語解説

※1 エンドオブライフ・ケア(End-of-Life Care: EOLC):
 診断名、健康状態、年齢に関わらず、差し迫った死、あるいはいつかは来る死について考える人が、生が終わる時まで最善の生を生きることができるように支援すること。
参考:Izumi, S., Nagae, H., Sakurai, C., & Imamura, E. (2012).
Defining end-of-life care from perspectives of nursing ethics. Nursing ethics, 19(5), 608–618.
https://doi.org/10.1177/0969733011436205

※2 ELNEC-J:
 2000年に米国のアメリカ看護大学協会(AACN)とCity of Hope National Medical Centerが共同で設立した看護教育プログラムです。日本では、2007~2009年度の厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業の一環として、ELNEC-Coreの日本語版であるELNEC-Jコアカリキュラム指導者養成プログラムが開発されました。
参考:https://www.jspm.ne.jp/seminar/elnecj/about.html?form=MG0AV3

謝辞

 本研究は山口大学重点連携大学事業(香港大学)の助成を受けて実施しました。
研究プロジェクト名「Teaching caring in an age of advanced medical technologies – Ethical reasoning through simulation in healthcare education (高度医療技術時代におけるケアリング教育 - 医学教育におけるシミュレーションによる倫理的推論)」

論文情報

論文名:Reflections on End-of-Life Care and Perspective of Nursing Education for Aging Societies in Asia
著者:Aiko Tanaka, Kyoko Murakami, Misae Ito, Tai Chun John Fung, Siu Ling Chan, Claudia Lai
掲載誌:Medical Science & Innovation 71巻3-4号・75-85頁
DOI:https://doi.org/10.60462/29769

お問い合わせ先


山口大学大学院医学系研究科(保健学専攻)基礎看護学講座
教授 田中 愛子
電話番号:0836-22-2860
Eメール:aitanaka@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp )
Researchmap:https://researchmap.jp/read0062569