【農学部】腸内細菌がイヌリンからカラメル化糖を作ることを発見
〜バクテロイデス属細菌のイヌリン分解酵素による生成物の構造解析を通じて、腸内細菌によるイヌリン分解の仕組みの一
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
磁気共鳴/二量体/オリゴ糖/高分子/質量分析/加水分解/水分解/持続可能/持続可能な開発/ビフィズス菌/機能性/基質特異性/加水分解酵素/酵素活性/機能解析/腸内環境/核磁気共鳴/生体高分子/ゲノム/遺伝子/細菌/腸内細菌
[記事掲載日:25.04.18]


概要
農学部の藤田清貴教授を中心とする研究グループは、理化学研究所専任研究員の石渡明弘博士らとの共同研究により、ヒトの主要な腸内細菌であるバクテロイデス属が持つendo-IFTaseと呼ばれる酵素がイヌリンを分解する際に、DFA III(カラメル化糖の一種)を還元末端側に付加したフルクトオリゴ糖を遊離することを明らかにしました。これは、カラメル化糖が、糖類の加熱によってのみ生成されるだけでなく、水溶性食物繊維であるイヌリンの摂取により腸内でも生成されることを示しています。
研究の背景:
イヌリンは、ビフィズス菌の増殖を促進することで腸内環境を整える作用が知られているチコリやゴボウなどの可食部に含まれる水溶性食物繊維であり、機能性表示食品の関与成分としてサプリメントやヨーグルトなどに添加されています。イヌリンの低分子画分であるフルクトオリゴ糖はビフィズス菌によって資化されることが明らかにされていましたが、イヌリンの高分子画分は利用されにくく、腸内環境においてどの様な仕組みで分解されているのかについては未解明のままでした。2015年に主要な腸内細菌として知られるバクテロイデス属細菌のBacteroides ovatus 及びB. caccae がイヌリン資化の鍵を握る酵素を有することが報告されましたが、その詳細な分解機構については解析が不十分でした。
研究の成果:
1. バクテロイデス属細菌のイヌリン分解生成物の構造解析
NMR(核磁気共鳴)やMS(質量分析)などの分析手法により、イヌリンを用いて培養したバクテロイデス属細菌の培養残渣中のオリゴ糖の構造解析を実施した結果、還元末端側に DFA III を付加したフルクトオリゴ糖 DFA III-Fru1 (DF1)および DFA III-Fru2 (DF2) の存在を明らかにしました。
2. endo-IFTaseの機能解析
バクテロイデス属細菌B. caccae 由来のイヌリン分解酵素の機能解析に成功しました。本酵素は糖質加水分解酵素(GH)ファミリー91に属し、イヌリンからDFA IIIを還元末端側に付加したフルクトオリゴ糖を遊離する反応を触媒しました。
本酵素はゲノム上に隣接して存在する2つの遺伝子にコードされたサブユニット1とサブユニット2のタンパク質が1:1で混ぜられたときに最も高い酵素活性を示すヘテロ二量体酵素でした。本酵素は、これまでに報告されていない基質特異性を持つ「エンド型イヌリンフルクトトランスフェラーゼ(endo-IFTase)」と命名されました。
研究の意義:
本研究により、endo-IFTase を介したイヌリンの腸内分解機構に関する新たな知見が得られ、DFA IIIが加熱調理だけでなく、ヒトの腸管内でもバクテロイデス属細菌によって生成されていることを明らかにしました。
DFA IIIはバクテロイデス属細菌にもビフィズス菌にも利用されないオリゴ糖です。最近、当研究室ではDFA IIIが腸内細菌のブラウティア属細菌に利用される仕組みを報告しました。これは、プレバイオティクスとしてのイヌリンが、バクテロイデス属細菌・ビフィズス菌・ブラウティア属細菌などの多様な腸内細菌による複雑な共生関係によって分解代謝されることを示唆しています。
ただし、どのような共生関係に基づきイヌリンが腸内で利用されているのかはよく分かっていません。腸内環境においてカラメル化糖の一つであるDFA IIIが生成されることを明確に示した今回の成果は、ヒト腸内におけるイヌリン分解代謝系の複雑な共生関係を理解するうえでの重要な知見の一つとなります。
この研究成果は、Elsevier社が発行する生体高分子の構造、機能、応用等に関する専門誌である「International Journal of Biological Macromolecules」に掲載されました。
(図:本研究の概略。左図はendo-IFTaseがsubunit1とsubunit2単独ではイヌリンに作用できず、1:1で混ぜられた時にヘテロ二量体酵素となりDFA IIIが付加されたオリゴ糖に分解されることを示したHPAEC-PADの分析結果。右図はendo-IFTaseの反応様式の模式図。)
掲載誌:International Journal of Biological Macromolecules, 310, 143064 (2025)
タイトル:Structural analysis of (2→1)-β-D-fructofuranosides linked to a terminal difructose dianhydride III produced by Bacteroides endo-type inulin fructotransferase.
著者:石渡明弘(責任著者)、志手由里奈、北原兼文、田中克典、伊藤幸成、藤田清貴(責任著者)
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ijbiomac.2025.143064
公開日:2025年4月10日(現地時間)
鹿児島大学 研究