沖合深海底の海洋保護区から15種の新種を発見
―環境省委託事業「沖合海底自然環境保全地域調査概要」―
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
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Press Releaseプレスリリース
2025.04.17

国立研究開発法人海洋研究開発機構
1. 発表のポイント
2020年に新たに指定された沖合深海底の海洋保護区に関するモニタリング調査を2020年から環境省委託事業として実施した。
これまでの調査で15種の新種や数多くの希少種を報告した。
調査した範囲において、指定から約4年が経過した我が国の沖合海底自然環境保全地域は健全な状態が維持され、保護区としての保全効果を発揮していることがわかった。
2. 概要
国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門の藤原義弘上席研究員らは、2020年に指定された沖合の海洋保護区(沖合海底自然環境保全地域※1)において生物多様性に関する大規模なモニタリング調査を実施し、これまでに15種の新種動物を報告しました。また同調査中に発見した巨大なツノサンゴ類の年齢推定を行い、7000歳を超える長命な生物である可能性があることを明らかにしたほか、2千メートルを超える深海域のトップ・プレデターとして知られるヨコヅナイワシの新たな生息地を沖合海洋保護区内で発見しました。これまでに調査を実施した沖合海洋保護区の大部分は、人為的な影響が少なく、健全性の高い状態にあり、保護区としての役割を発揮していることがわかりました。今後も沖合海洋保護区を含む深海域において、新種を含む生物多様性情報の収集や生物の分布、生態等を明らかにすることで脆弱な深海生態系の理解を促進し、地球環境変動が深海生態系に及ぼす影響を正確に評価することが期待できます。なお本研究は環境省委託事業「令和2年度〜6年度沖合海底自然環境保全地域調査等業務」による成果です。 用語解説 ※1沖合海底自然環境保全地域
自然環境保全法に基づき、2020年12月に指定された沖合深海底の海洋保護区。①日本海溝の最南部及び伊豆・小笠原海溝周辺の海域、②中マリアナ海嶺と西マリアナ海嶺を含む海域、③西七島海嶺を含む海域、及び④マリアナ海溝北部の海域の4海域が指定された。この指定により我が国が管轄する海域における保護区の割合は13.3%となり、「2020年までに海域の10%以上を保護区等として保全する」とした愛知目標が達成された。
3. 背景
海洋環境の劣化が地球規模で問題となっており、その保全は世界的な急務です。2010年に愛知県で生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)が開催されました。この会議において「2050年までに、生態系サービスを維持し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用される。」ことを新たな戦略目標とする「愛知目標」が採択されました。その中の具体的な目標の一つとして、参加各国は2020年までに、陸域の17%、海域の10%を保護地域として保全することが定められました。愛知目標が採択された時点で、我が国が管轄する海域の保護区は8.3%しかありませんでしたが、自然環境保全法に基づき、2020年12月に新たな海洋保護区である「沖合海底自然環境保全地域」が指定されました(図1)。これにより日本の海洋保護区の割合は13.3%となり、我が国が議長国として採択した愛知目標が達成されました。
図1 沖合海底自然環境保全地域
黄枠:沖合海底自然環境保全地域、赤枠:沖合海底特別地区
海洋保護区は指定すればそれで終わりではなく、指定された沖合海底自然環境保全地域が健全な状態を保っているのか、海洋保護区として保全効果を発揮しているのか、地球環境変動や人間活動の影響にどのような反応を示しているのか、といった確認が必要であるため、継続的なモニタリングが必要です。しかし、新たに指定された沖合海底自然環境保全地域はそのほぼ全てが沖合の深海底であることから、生態系モニタリグには特殊な船舶や調査機器類、調査に当たっての知識や技術が求められ、陸域や沿岸域の保護区調査に比べ、その実施は非常に困難でした。
JAMSTECは深海調査を行うための調査船舶や機器類を数多く保有しており、深海域の調査研究を長年にわたり実施してきた数少ない研究機関です。そこで我々は沖合海底自然環境保全地域における生態系モニタング調査を環境省からの委託事業として実施し、生物学的・生態学的なベースラインデータの取得を試みました。
4. 成果
2020年、2021年に海底広域研究船「かいめい」、2022年〜2024年に深海潜水調査船支援母船「よこすか」を用いて、指定された4つの沖合海底自然環境保全地域、すなわち「伊豆・小笠原海溝 沖合海底自然環境保全地域」、「中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部沖合海底自然環境保全地域」、「西七島海嶺沖合海底自然環境保全地域」、「マリアナ海溝北部沖合海底自然環境保全地域」において生態系調査を実施しました。調査は5つの航海で全58日間におよび、無人探査機「KM-ROV」19潜航、有人潜水調査船「しんかい6500」11潜航、AUV「YOUZAN」※2 6潜航、CTD付きロゼット型採水器※3 11キャスト、ベイトカメラ※4 22キャスト、フリーフォールランダー※5 5キャストを行いました(図2)。
図2 調査に使用した機器類
(A) 有人潜水調査船「しんかい6500」、(B) ROV「KM-ROV」、(C) AUV「YOUZAN」、(D) CTD付きロゼット型採水器、(E) フリーフォールランダー、(F) ベイトカメラ
各調査海域の生物多様性を明らかにするために、採集した動物の分類学的同定を行った結果、19動物門約500種を見出しました。またこの中から、これまでに計15種の新種を報告しました(表1、図3、図4)。これらの新種は5つの動物門(刺胞動物門、紐形動物門、環形動物門、節足動物門、棘皮動物門)にわたり、節足動物門からの7種が最多でした。最も新種の発見が多かった海域は西七島海嶺沖合海底自然環境保全地域で、15種のうち10種を発見しました。新種を発見した水深は400〜3623メートルでした。特筆すべき点は生物採集のための調査としてはROVによる2潜航しか実施していない安永海山から6種の新種を発見したことです。新種の記載には時間がかかるため、全15種のうち14種が2020年、2021年に実施した航海で採集した標本でした。このほか、太平洋初記録種や日本初記録種といった各海域における希少種をこれまでに12種報告しました(図4、表2)。

図3 沖合海底自然環境保全地域より発見した新種

オニツノワラエビ(新種)

リットウクモエビ(新種、矢印)

ヨリフサボヤ(希少種、矢印)

ムロトスイセイアシロ(希少種)

フサアンコウ科の1種(希少種)

イズハナダイ属の1種(希少種)
図4 沖合海底自然環境保全地域より発見した新種、希少種 表1.沖合海底自然環境保全地域で発見した新種
| No. | 種名 | 和名 | 動物門 | 採集海域 | 採集地 | 採集水深(m) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | Anthoptilum gnome Kushida, Kise, Iguchi, Fujiwara & Tsuchida, 2024 | ノームツルウミサボテン | 刺胞動物門 | 西七島海嶺 | 安永海山 | 998 |
| b | Asthenactis agni Kobayashi, Yamamoto, Fujiwara, Tsuchida & Fujita, 2022 | ミズカキヒトデ | 棘皮動物門 | 西七島海嶺 | 安永海山 | 1970 |
| C | Branchinotogluma nikkoensis Jimi, Chen & Fujiwara, 2022 | ニッコウツノダシウロコムシ | 環形動物門 | 中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部 | 日光海山 | 458 |
| D | Dendrogaster nike Jimi, Kobayashi, Moritaki, Woo, Tsuchida & Fujiwara, 2023 | ミズカキヒトデシダムシ | 節足動物門 | 西七島海嶺 | 安永海山 | 1970 |
| E | Eiconaxius kaimei Komai, Tsuchida & Fujiwara, 2024 | カイメイヤドリアナエビ | 節足動物門 | 西七島海嶺 | 安永海山 | 888 |
| F | Eiconaxius latirostrum Komai, Tsuchida & Fujiwara, 2024 | カイザンヤドリアナエビ | 節足動物門 | 西七島海嶺 | 正保海山 | 456 |
| G | Genrokunemertes obesa Hookabe, Koeda, Fujiwara, Tsuchida & Ueshima, 2022 | なし | 紐形動物門 | 西七島海嶺 | 元禄海山 | 2084 |
| H | Gonionida kaimei Komai, Tsuchida & Fujiwara, 2023 | カイメイチュウコシオリエビ | 節足動物門 | 西七島海嶺 | 安永海山 | 456.9 |
| I | Lacydonia shohoensis Hookabe, Jimi, Yokooka, Tsuchida & Fujiwara, 2022 | ショウホウラキドニア | 環形動物門 | 西七島海嶺 | 正保海山 | 2042 |
| J | Melinnopsis shinkaiae Jimi, Hookabe, Woo & Fujiwara, 2025 | タケウマカザリゴカイ | 環形動物門 | 伊豆・小笠原海溝 | 第1鹿島海山 | 3623 |
| K | Periclimenes variabilis Komai, Tsuchida & Fujiwara 2023 | ウスベニシンカイカクレエビ | 節足動物門 | 中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部 | 立冬海山 | 642–666 |
| L | Sternostylus spiniger Komai, Tsuchida & Fujiawra, 2023 | オニツノワラエビ | 節足動物門 | 中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部 | 立冬海山 | 657 |
| M | Tetrastemma shohoense Hookabe, Kohtsuka, Fujiwara, Tsuchida & Ueshima, 2023 | ショウホウカクバリヒモムシ | 紐形動物門 | 西七島海嶺 | 正保海山 | 455 |
| N | Uroptychus medius Komai, Tsuchida & Fujiawra, 2023 | リットウクモエビ | 節足動物門 | 中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部 | 立冬海山 | 2001 |
| O | Vitrumanthus flosculus Kise & Reimer, 2024 | なし | 刺胞動物門 | 西七島海嶺 | 正保海山,安永海山 | 400 |
| 種名 | 和名 | 動物門 | 採集海域 | 採集地 | 採集水深 (m) | 希少性 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Bathypalaemonella pandaloides (Rathbun, 1906) | マダラシンカイテナガエビ | 節足動物門 | 西マリアナ海嶺 | 立冬海山 | 657 | 北西太平洋初記録種 |
| Eumunida smithii Henderson, 1885 | ウスイロツノコシオリエビ | 節足動物門 | 西七島海嶺 | 正保海山、正徳海山 | 456、317 | 日本初記録種 |
| Eumunida treguieri de Saint Laurent & Poupin, 1996 | シロユビツノコシエオリエビ | 節足動物門 | 西マリアナ海嶺 | 立冬海山 | 666 | 北西太平洋初記録種 |
| Trapezionida psylla (Macpherson, 1994) | ダイダイチュウコシオリエビ | 節足動物門 | 西マリアナ海嶺 | 日光海山 | 488 | 北西太平洋初記録種 |
| Fimbrora calsubia Monniot & Monniot, 1991 | ヨリフサボヤ | 脊索動物門 | 西七島海嶺 | 宝永海山 | 2027 | 北太平洋初記録属 |
| Narcetes shonanmaruae Poulsen, Ida, Kawato & Fujiwara, 2021 | ヨコヅナイワシ | 脊索動物門 | 西七島海嶺 | 正徳海山、元禄海山南方、安永海山 | 1961–2091 | 沖合海底自然環境保全地域初記録種 |
| Stethopristes eos Gilbert, 1905 | カガリビマトウダイ | 脊索動物門 | 西マリアナ海嶺 | 立冬海山 | 519 | 西太平洋初記録種 |
| Idiastion pacificum Ishida & Amaoka, 1992 | カクレカサゴ | 脊索動物門 | 西マリアナ海嶺 | 立冬海山 | 380–500 | 沖合海底自然環境保全地域初記録種 |
| Prognathodes guyotensis (Yamamoto & Tameka, 1982) | ウラシマチョウチョウウオ | 脊索動物門 | 西七島海嶺 | 正徳海山 | 321 | 沖合海底自然環境保全地域初記録種 |
| Chaunacops sp. | フサアンコウ科Chaunacops属の1種 | 脊索動物門 | 西マリアナ海嶺 | 立冬海山 | 1884 | 日本初記録属 |
| Plectranthias purpuralepis Tang, Lai & Ho 2020 | イズハナダイ属の1種 | 脊索動物門 | 西七島海嶺 | 正保海山 | 360 | 日本初記録種 |
| Benthocometes australiensis | ムロトスイセイアシロ | 脊索動物門 | 西マリアナ海嶺 | 立冬海山 | 508 | 沖合海底自然環境保全地域初記録属 |
中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部沖合海底自然環境保全地域では、水深525 メートルの西マリアナ海嶺の頂上部付近から、通常の数倍の大きさのツノサンゴ類の一種 Leiopathes cf. annosa の群体を発見しました。この群体は高さ約 308センチメートル、幅 441センチメートル、基部の直径が28センチメートルに達し、過去の研究による推定成長速度(年間0.02ミリメートル)を基に算出すると、推定年齢 が約7,000年であることがわかりました。これにより、この群体は地球上で最も長寿の海洋生物の一つである可能性を示しました。(2024年10月25日既報)関連プレス1。
西七島海嶺からは深海域のトップ・プレデターであり、希少種のヨコヅナイワシを発見しました。西七島海嶺の正保海山、正徳海山、元禄海山、安永海山および中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部の日光海山、立冬海山において、生物多様性を把握するための環境DNA調査を実施しました。計2.6トンの海水を75本のフィルターで濾過し、その試料から得た約780万個のDNA配列を解読したところ、正徳海山の水深1961メートル、元禄海山南方の水深2060メートル、安永海山の水深1969メートルおよび1976メートルで採取した海水からヨコヅナイワシの遺伝子配列を検出しました。このうち、元禄海山南方、水深2091メートルの海底にベイトカメラ(エサ付きカメラ)を設置したところ、ヨコヅナイワシの姿を撮影することに成功しました。撮影した映像から推定したヨコヅナイワシの全長は253センチメートルで、水深2000メートルを超える深海固有種として世界最大の硬骨魚類であることが判明しました。(2022年7月1日既報)関連プレス2
今回調査を実施した4つの沖合海底自然環境保全地域には指定理由として指定書に記された「固有性又は唯一性が高い種」や「脆弱で低回復な種及び生物群集」が分布し、それらの生息環境が優れた状態で維持されていることが確認できたことから、現段階では保全地域としての役割を発揮していることがわかりました。 用語解説 ※2
AUV「YOUZAN」
いであ株式会社所有の自律型無人探査機。ホバリング型と呼ばれる低高度での移動が可能なロボットで、海底のフォトモザイクマッピングが可能である。 ※3
CTD付きロゼット型採水器
海水の塩分、水温、圧力(深度)を計測するセンサーで構成された観測装置を組み合わせた採水器。 ※4
ベイトカメラ
自由落下で海底に設置する餌付きカメラシステム。塩分、水温、水深などの環境因子を計測する装置のほか、流向流速計を備え、餌に集まるプレデターなどの多様性や生息密度を明らかにすることができる。 ※5
フリーフォールランダー
自由落下で海底に設置するカメラシステム。塩分、水温、水深、流向流速などの環境因子を計測する装置を装備するほか、柱状採泥器や採水器などを備えるものもある。
5. 今後の展望
これまでの研究結果から、指定から約4年が経過した我が国の沖合海底自然環境保全地域は健全な状態を維持していることがわかりました。一方で、それぞれの沖合海底自然環境保全地域の生物多様性についてはまだ十分に理解できているとは言えず、引き続きその理解に向けた取り組みを継続する必要があることもわかりました。地球環境変動や人間活動の影響が深海にも及んでいることが明らかになりつつある昨今、JAMSTECでは本研究の成果を活かして、沖合海底自然環境保全地域等における生物多様性の把握に務めるとともに、生態系を簡便にモニタリングするための技術開発をさらに進め、地球環境変動が深海生態系に及ぼす影響をより正確に評価することのできる研究開発を継続的に推進します。また2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「30by30(サーティ・バイ・サーティ)目標※6」の実現に向けた情報の収集と提供を実施します。 用語解説 ※630by30(サーティ・バイ・サーティ)目標
2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された達成目標で、参加各国は2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全することが求められている。
関連プレスリリース:
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「世界最長寿級の深海生物を発見 〜太平洋の海山(水深525m)で7000年以上生きるサンゴ群体〜」(2024年10月25日)
https://www.u-ryukyu.ac.jp/wp-content/uploads/2024/10/A-massive-and-ancient-antipatharian-colony-at-a-seamount-in-the-Northwest-Pacific.pdf
「ヨコヅナイワシが2000 m以深に棲息する世界最大の深海性硬骨魚類であることを明らかに」(2022年7月1日)
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20220701/
本研究のお問い合わせ先 国立研究開発法人海洋研究開発機構
地球環境部門海洋生物環境影響研究センター
上席研究員 藤原義弘
報道担当 海洋科学技術戦略部 報道室 CONTACT
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