【研究成果】量子化学計算を革新!GPUで高速化するソフトウェア「GANSU(ガンス)」をオープンソース公開
従来比最大7.1倍の高速計算を実現!
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
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研究のポイント
発表概要
広島大学大学院先進理工系科学研究科の伊藤靖朗教授らの研究チームは、富士通株式会社と共同で量子化学計算ソフトウェア GANSU (GPU Accelerated Numerical Simulation Utility) を開発しました。GANSUは、量子力学の基本となる ハートリーフォック法を中心とした計算手法を高効率に実装しており、GPU を活用することで現行ソフト (PySCF) と比較し 最大7.1倍の計算速度向上 を実現しました。GANSUは、C++で実装され高効率な並列処理を実現し、量子化学計算を迅速かつ柔軟に行える機能を提供します。これにより、研究者や技術者は、高度な理論計算を含む分子シミュレーションを容易に実行可能です。また、ライブラリとして利用することも可能であり、他プログラムとの連携性も高く、様々な実用分野での応用が期待されます。
また、本研究成果は、2025年2月27日に学術専門誌Applied Sciences に掲載されました。
背景
従来の量子化学計算ソフトウェアは、長年の改良によって多機能化が進む一方で、プログラムの構造が複雑化し、専門家であっても全体を把握することが困難な状況にありました。また、最新のコンピュータ性能を十分に活用できておらず、多くのコードがFortranで記述されているため、現代のプログラミング環境との整合性にも課題が残されています。
一方で、量子化学計算のさらなる高速化には、シュレーディンガー方程式からエネルギー計算に至る一連のプロセスを数式レベルから理解し、分子構造やアクセラレータに最適化されたアルゴリズムを設計・選択することが不可欠です。このようなアプローチを実現するためには、従来のソフトウェアに依存せず、ゼロから新しい量子化学計算ソフトウェアを開発することが重要となります。
しかし、あらゆる原子・分子構造や計算手法を網羅するソフトウェアを、一研究室や一企業のみで開発することは、人的・時間的な制約から現実的ではありません。そこで私たちは、オープンソース化を通じたコミュニティ開発を採用し、量子化学計算における共同開発プラットフォームの構築を目指しています。
研究成果の内容
GANSUは、電子配置の違いに対応する多様な計算手法を備えた次世代の量子化学計算ソフトウェアです。Restricted Hartree-Fock(RHF)、Unrestricted Hartree-Fock(UHF)、Restricted Open-Shell Hartree-Fock(ROHF)などの主要な手法を高効率に実装し、分子軌道の計算を高速かつ正確に行います(図1)。さらに、今後は電子励起を考慮したポストハートリーフォック法(*5)への対応も予定しており、より複雑な化学系や高精度なシミュレーションが求められる分野での活用が期待されます。
図 1 GANSUで計算したベンゼンの分子軌道
GANSUは最先端のGPU並列計算アーキテクチャを活用し、量子化学計算のボトルネックとなる膨大な計算を圧倒的な効率で処理します(図2)。特に、ハートリーフォック法において計算負荷の高い分子積分の計算を徹底的に最適化することで、従来の手法と比べて飛躍的な計算速度を実現しました(発表文献[1,2,3,4,5,6,7])。この高速性により、創薬や材料科学といった分野での応用が加速し、科学技術の発展を支える重要な基盤となります。
図2 GANSUの計算速度比較
GANSUの活用により、新薬開発においては候補化合物の特性をコンピュータ上でシミュレーションすることで、実験回数の削減や開発期間の短縮が期待されます。また、新材料の開発においても、原子レベルでの構造や物性の予測を通じて、より効率的な材料設計が可能になります。その高い計算能力と柔軟な適用範囲により、これらの重要な分野における研究を加速させ、社会的課題の解決に貢献することを目指しています。GANSUの導入は、革新的な技術の発展を促し、持続可能な社会の実現に向けた科学技術の飛躍を支える力となると確信しています。
今後の展開
今後は、計算精度のさらなる向上を目指した新機能の追加や、より複雑な分子の計算への対応を進めていきます。GANSUが創薬や材料開発における革新的な発見を加速する鍵となることを目指します。
用語解説
(*1)第一原理計算 (ab initio)基礎物理定数以外の実験値に依存しない量子力学に基づいた計算手法。
(*2)ハートリーフォック法
分子軌道計算の基本となる手法で、基底状態の電子の波動関数を最適化することで分子のエネルギーを計算する手法。
(*3)GPU (Graphics Processing Unit)
グラフィックス処理を行うための専用プロセッサ。高速な並列演算が可能で、
科学技術計算や機械学習などの分野で広く利用。
(*4)PySCF (Python-based Simulation of Chemistry Framework)
分子軌道計算を行うためのオープンソースライブラリ。Python言語で記述さ
れており、多様な計算手法をサポート。
(*5)ポストハートリーフォック法
ハートリーフォック法の拡張で、電子相関を考慮した高精度な計算を行う手法。
論文発表情報
Davidson Method for Shell-Based ERI Computations
掲載誌:Applied Sciences
著者:Haruto Fujii, Yasuaki Ito, Nobuya Yokogawa, Kanta Suzuki,
Satoki Tsuji, Koji Nakano, Victor Parque, and Akihiko Kasagi
*責任著者:Yasuaki Ito
DOI:https://doi.org/10.3390/app15052572
掲載日:2025年2月27日
その他の関連論文等
https://doi.org/10.1109/CANDAR60563.2023.00014
https://doi.org/10.1109/CANDAR64496.2024.00021
https://doi.org/10.1109/CANDARW64572.2024.00041
https://doi.org/10.1002/cpe.8328
https://doi.org/10.1109/CANDARW64572.2024.00033
詳細情報
https://nextgen-computing.hiroshima-u.ac.jp/
問い合わせ先
大学院先進理工系科学研究科 伊藤 靖朗
Tel:082-424-7681 FAX:082-424-7681
E-mail:yasuaki*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に置き換えてください)
掲載日 : 2025年03月17日
広島大学 研究