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大阪大学 研究Discovery Saga
2025年3月14日

標的のがん細胞を画像化し、ベータ線で攻撃

EphA2を標的とした新たな核医学セラノスティクス

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
診断薬/フッ素/放射性核種/抵抗性/さんご/アイソトープ/核医学/受容体型チロシンキナーゼ/神経内分泌/チロシンキナーゼ/悪性度/子宮/肉腫/放射線治療/卵巣/臨床応用/スポーツ/スポーツ科学/甲状腺/食道がん/前立腺がん/大腸/卵巣がん/モデルマウス/悪性腫瘍/画像診断/発がん/がん細胞/キナーゼ/ジルコニウム/プローブ/マウス/ラット/リガンド/受容体/大腸がん/内分泌/副作用/化学療法/個別化医療/抗がん剤/抗体/疾患モデル/乳がん/肺がん/放射線
2025-3-7●生命科学・医学系医学系研究科講師渡部直史

発表のポイント

  • 様々ながん細胞に発現するEphA2受容体を標的とした新たな放射性リガンドを開発
  • がん細胞に集まった後、体内からベータ線と呼ばれる放射線を放出し、がん細胞を攻撃
  • PETを用いた画像診断により、将来的に治療に適した患者さんを選択可能
  • がん細胞に結合する抗体に対して、標識する放射性核種を変えることで、診断から治療まで一貫して実施する「セラノスティクス(Theranostics)」の有用性を実証
  • 発表概要

    大阪大学大学院医学系研究科放射線医学 渡部直史 講師、富山憲幸 教授、放射線科学基盤機構 白神宜史 特任准教授(常勤)らの研究チームは、東洋大学ライフイノベーション研究所 岩澤卓弥 助手、加藤和則 教授、金沢大学疾患モデル総合研究センター 木村寛之 教授(研究当時、現:協力研究員)との共同研究において、様々ながんに発現するEphA2受容体を標的とした新たな放射性リガンド([Zr-89/Lu-177]標識EphA2抗体) の開発に成功しました。
    EphA2受容体は乳がん、肺がん、食道がん、大腸がん、子宮頚がん、卵巣がん、前立腺がんなど多くのがんで発現していることが知られています。今回、開発したジルコニウム(Zr-89)標識EphA2抗体(PET画像診断プローブ)を悪性腫瘍の線維肉腫モデルマウスに静脈内投与したところ、PET画像上で腫瘍への明瞭な高集積が確認できました。さらにベータ線を放出する治療用核種のルテチウム(Lu-177)で標識した抗体の投与を行うと、腫瘍の著明な退縮が確認され、18匹中6匹(1/3) でがんの完全消失が認められました。EphA2抗体を用いて、画像診断から核医学治療までを一貫して実施するセラノスティクスと呼ばれる新たな一体化技術が大変有効であることが実証できました(図1)。
    将来的にPET画像診断を用いて、全身の転移巣におけるEphA2の発現を確認した後に治療効果が期待できる患者さんを選択し、Lu-177標識EphA2抗体を用いた治療を実施する形での臨床応用が期待されます。
    本研究成果は、科学誌「European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging」に、2月12日(水)に公開されました。

    図1. セラノスティクス(Theranostics: Diagnostics + Therapeutics)のイメージ

    研究の背景

    近年、がん細胞に結合する化合物に対して、標識する核種を変えることで、がんの診断から治療まで一貫して実施するセラノスティクス(Theranostics)が注目を集めており、国内外で研究開発が進んでいます。診断にはPET(ペット)と呼ばれる画像診断を用いることが多く、治療には主にベータ線と呼ばれる放射線を放出する放射性医薬品が用いられます。日本国内においては、甲状腺がんに対する放射性ヨード治療、神経内分泌腫瘍・悪性褐色細胞腫に対する核医学治療が実施されていますが、肺がんや乳がんといった罹患数の多い多くのがんにはまだ展開されていません。
    EphA2受容体は細胞の増殖・分化・移動・生存などを調節する受容体型チロシンキナーゼと呼ばれる酵素の1つであり、がん細胞の増殖・転移を促進する働きがあり、がんの悪性度を高めていると言われています。EphA2を標的とした治療薬はまだ実用化されておらず、既存の抗体治療薬としての開発では十分な治療効果が得ることが難しいとされていました。

    研究の内容

    今回、様々ながんに発現するEphA2受容体を標的とした新たなPET画像診断プローブ、ならびにベータ線治療薬として、[Zr-89/Lu-177]標識EphA2抗体の開発に成功しました。
    本研究において開発したZr-89標識EphA2抗体を線維肉腫モデルマウスに静脈内投与したところ、腫瘍に高集積を示すことをPET画像で確認できました(図2左)。腫瘍への集積は5日後にかけて、さらに増強しました。また標識する核種をルテチウム(ベータ線を放出する核種)に切り替えたLu-177標識EphA2抗体(10MBqまたは3MBq)を投与すると、対照群(生理食塩水投与群)と比較して、腫瘍の著明な退縮を認め、18匹中6匹(1/3) ではがんの完全消失が認められました。
    今回のEphA2を標的とした放射性リガンド療法(核医学治療)では、がん細胞選択的に抗体を用いて放射性核種を集積させ、ベータ線と呼ばれる放射線を放出することで腫瘍の完全消失という顕著な治療効果が得られることが確認できました。本治療は抗がん剤のように静脈内投与による全身治療であるため、従来の放射線治療(外照射)で治療することが困難な場合、あるいは既存の抗がん剤に抵抗性の進行がんに対しても、全身のがん病変を体内から放射線で攻撃することで治療効果が期待できます。

    図2.[Zr-89/Lu-177標識EphA2抗体を用いたセラノスティクス:(左)線維肉腫モデルマウスを用いたZr-89標識EphA2抗体のPETイメージング(赤矢印が腫瘍)、(右)Lu-177標識EphA2抗体を用いたベータ線治療による腫瘍退縮効果の図

    本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

    多くのがんにおいて、多発転移を伴う再発患者さんには化学療法などが実施されますが、副作用が少なくありません。一方、核医学治療では重篤な副作用を認めることは稀であり、かつ画像診断で治療効果が見込まれる患者さんを選択できることから、患者さんごとに適した個別化医療の推進に役立ちます。本研究成果の[Zr-89/Lu-177]標識EphA2抗体を用いたセラノスティクスの臨床応用が実現すれば、難治性の進行がんを含む多くの患者さんの治療に用いられることが期待されます。

    特記事項

    本研究成果は、科学誌「European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging」に、2月12日(水)にオンラインで掲載されました。
    DOI:https://doi.org/10.1007/s00259-025-07139-9
    【タイトル】 “Theranostics using 89Zr/177Lu-labeled antibody targeting erythropoietin-producing hepatocellular A2 (EphA2)”
    【著者名】 渡部直史1,2*, 岩澤卓弥3, 木村寛之4, 白神宜史2, 仲 定宏5, 兼田加珠子2,6, 小林孝徳1, 面川真里奈7, 屋木祐亮8, 富山憲幸1,2, 加藤和則3,9 (*責任著者)
    【所属】
    1. 大阪大学 大学院医学系研究科 放射線医学
    2. 大阪大学 放射線科学基盤機構
    3. 東洋大学 ライフイノベーション研究所
    4. 金沢大学 疾患モデル総合研究センター
    5. 大阪大学 医学部附属病院 薬剤部
    6. 大阪大学 大学院理学研究科 附属フォアフロント研究センター 医理核連携教育研究プロジェクト
    7. 岡山大学 学術研究院医歯薬学域
    8. 京都医療科学大学 医療科学部 放射線技術学科
    9. 東洋大学 健康スポーツ科学部
    本研究は、科学技術振興機構(JST)産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)(22H02928、23K24189)の支援を受けて、実施されました。
    本研究におけるEphA2抗体は東洋大学 加藤和則教授より提供され、金沢大学 木村寛之 教授(研究当時、現:協力研究員)によるリンカー結合技術により、放射性核種の標識を行いました。PET画像診断薬の標識に用いたジルコニウム(Zr-89)は大阪大学医学部附属病院内に設置された医療用サイクロトロン(住友重機械工業株式会社製)を用いて製造され、仲定宏 薬剤師(同病院薬剤部)が標識を行いました。従来のPET画像診断に用いられるフッ素(F-18)の半減期は110分と短く、体内に比較的ゆっくり分布する抗体には長半減期PET核種のZr-89(半減期 78.4時間)が適しています。また治療に用いたルテチウム(Lu-177)は日本アイソトープ協会を通じて、海外から輸入し、白神宜史 特任准教授(常勤、放射線科学基盤機構)が標識を実施しました。