研究のポイント
国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:中釜 斉)研究所(所長:間野 博行)の基礎腫瘍学ユニットの大木 理恵子独立ユニット長率いる研究チームは、新しい細胞死誘導に関わるReprimoタンパク質の機能を明らかにしました。p53遺伝子注1は最も有名で重要ながん抑制遺伝子で、様々な遺伝子の制御に関わることが知られていますが、p53機能の全貌はいまだに解明されていません。
2000年に大木 理恵子独立ユニット長はp53遺伝子の制御を受けてがん抑制に関わるラテン語で「抑制」の意味のReprimo遺伝子(遺伝子シンボル:RPRM)を発見しましたが、これまでReprimoの分子機能は明らかになっていませんでした。
今回、特任研究員の滝川 雅大博士ら(現 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科 助教)が、Reprimoタンパク質は細胞内から細胞外へと分泌され、Reprimoタンパク質を受け取ったがん細胞はアポトーシスと呼ばれる細胞死を起こすことを世界で初めて明らかにしました。正常な細胞ではがん抑制遺伝子p53遺伝子とReprimoが正常に働くことで細胞のがん化を抑制し、これらの機能を失うことでがん化が進行すると考えられます。また、Reprimoによる細胞死が起きた細胞内では、シグナル伝達経路として、カドヘリン様タンパク質受容体注2、Hippo経路注3、p73が必要であることも明らかになりました。
この発見により、Reprimoやその関連経路を標的とした新しい抗がん治療の開発が期待されます。今回の成果は、今後のがん治療研究に新たな道を開くものであり、これらの経路を標的にした抗がん剤の開発や、Reprimoタンパク質自体をがんの治療に応用することが期待されます。
【展開】
研究チームは、Reprimoタンパク質がこれまでに試したすべてのがん細胞に細胞死を引き起こす一方で、実験を行った範囲では正常細胞には影響を与えないことを発見しました。この成果は、Reprimoタンパク質自体やその機能を応用した抗がん剤が、副作用を抑えながら高い治療効果を発揮する新しい治療薬の開発に繋がる可能性を示しています。
今回、私たちは世界で初めてReprimoタンパク質の機能を解明しました。今後は、細胞やマウス実験で証明された細胞死やがん抑制がヒトで応用可能であるか、臨床応用に向けてはさらなる検証が必要です。
用語解説
注1:p53遺伝子がんにおいて、最も高頻度に変異が発見される遺伝子であり、がん抑制遺伝子として知られている。主に転写制御を行い、標的遺伝子の活性化を行うが、がんではその機能は失われていると考えられている。
注2:カドヘリン様タンパク質
細胞間接着に関わり、細胞外領域にカドヘリン様ドメインを持つタンパク質群。一部のカドヘリン様タンパク質はショウジョウバエでは細胞の極性に影響を与えることが分かっているが、詳細な機能は分かっていないことが多い。
注3:Hippo-YAP/TAZ経路
ショウジョウバエ、マウス、ヒトで保存されたシグナル伝達経路。器官の大きさを制御するための細胞増殖に関わることが知られているが、反対に細胞死にも関わることが明らかになっている。転写共役因子であるYAP/TAZのリン酸化状態がこの経路によって制御され、さまざまな標的遺伝子の発現が変化する。
【論文情報】
DOI:10.1073/pnas.2413126122
【研究費】
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 若手研究
研究課題名:p53PAD7傍分泌とHippoシグナル経路によるがん抑制機構の解明
研究代表者名:滝川 雅大
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 若手研究
研究課題名:分泌性タンパク質p53PAD7によるアポトーシス誘導メカニズムの解明
研究代表者名:滝川 雅大
研究費名(支援先): 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
研究事業名:次世代がん
研究課題名:希少がんである神経内分泌腫瘍の代謝特性の解明と新規治療標的同定
研究代表者名:大木 理恵子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 基盤B
研究課題名:がん抑制遺伝子PHLDA3による臓器を超えた神経内分泌腫瘍抑制メカニズムの解明
研究代表者名:大木 理恵子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 挑戦的研究(萌芽)
研究課題名:食事療法を用いた副作用のない非機能性の膵臓神経内分泌腫瘍の予防法・治療法の開発
研究代表者名:大木 理恵子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:科学研究費 基盤C
研究課題名:肝臓におけるタンパク質フコシル化異常による疾患発症機構の解明
研究代表者名:田端 祐子
研究費名(支援先):日本学術振興会
研究事業名:特別研究員奨励費
研究課題名:p53-PAD7を介した分化方向性および肝がん制御機構の解明
研究代表者名:中野 愛里
研究費名(支援先):長崎大学卓越大学院プログラム
研究事業名:世界を動かすグローバルヘルス人材育成プログラム
研究課題名:Analysis of the role of p53-PAD7-YAP/TAZ pathway in deciding cell fate and oncogenesis of hepatocarcinoma
研究代表者名:中野 愛里
研究費名(支援先):科学研究費補助金
研究事業名:新学術領域研究(研究領域提案型)
研究課題名:学術研究支援基盤形成 先端モデル動物支援プラットフォーム
研究代表者名:今井 浩三、井上 純一郎 (研究分担者:荒木 喜美(熊本大学生命資源研究・支援センター))
【詳細】プレスリリース(PDF1,526KB)

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