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神戸大学 研究Discovery Saga
2025年2月27日

細胞の接着を支える新たな仕組みを解明アファディンが液滴のように集まることで接着複合体を形成

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学工学総合生物医歯薬学
【Sagaキーワード】
弱い相互作用/相分離/マイクロ/アクチン繊維/細胞間接着/支持細胞/組織形成/聴覚/難聴/アクチン/カドヘリン/凝集体/形態形成/再生医療/細胞骨格/細胞生物学/細胞接着/上皮細胞/接着分子/培養細胞/タイトジャンクション
2025.02.27生物系科学
  • 細胞生物学

  • 私たちの体を形づくる細胞同士の結びつきを支えるには、「接着複合体」と呼ばれる構造が欠かせません。この接着複合体は細胞の頂端部(上側)に存在し、タイトジャンクション(TJ)とアドヘレンスジャンクション(AJ)という異なる2つの接着構造から構成されています。しかし、これらの構造がどのように正確に形成され、並んで配置されるのか、そのメカニズムはこれまで十分に解明されていませんでした。
    神戸大学大学院医学研究科の久野舟平大学院生とバイオシグナル総合研究センターの富樫英研究員らの研究グループは、株式会社ニコン、東京都立大学と共同で細胞接着の形成メカニズムに関する新たな発見をしました。細胞同士の結びつきを支える「アファディン」というタンパク質が、接着分子や細胞骨格と相互作用しながら、液滴のような「凝集体」を形成することで、接着複合体の適切な配置を制御していることが明らかになったのです。
    この働きには、アファディンが持つ特殊な「IDR(天然変性領域)」という性質が深く関わっており、特に接着複合体が作られる初期段階で重要な役割を果たすことが明らかになりました。また、アファディンと「ZO-1」という別のタンパク質が、接着複合体内で配置される仕組みも解明しました。
    これらの発見により、アファディンが細胞間接着の形成を促進し、接着複合体内でTJとAJを適切に分ける役割を果たしていることが示されました。この研究により、細胞接着の基本原理が解明されるだけでなく、がんの転移や再生医療の新たな治療戦略の開発につながる可能性があります。
    この研究成果は、2月27日午前1時(日本時間)に国際学術誌『Cell Reports』に掲載されました。
    アファディン凝集体形成と液滴様のふるまい接着面のアファディンの断片化により、凝集体の形成が見られる。アファディン凝集体は液滴のように振る舞い、融合する様子が見られる。

    ポイント

  • アファディンは液滴のような「凝集体」を形成することで、上皮細胞の適切な位置に細胞間接着を作り出す。
  • アファディンのIDR(天然変性領域)は、接着複合体内でタイトジャンクション(TJ)とアドヘレンスジャンクション(AJ)の正確な配置に働く。
  • アファディンは接着分子や細胞骨格(アクチン)と結合し、効率的に細胞間接着を形成するための凝集体をつくる。
  • 研究の背景

    私たちの体は、細胞が集まって作られる「組織」や「器官」で構成されています。このとき、細胞同士がしっかりと接着することで形を保ち、正しく働くことができます。この「細胞同士の接着」を支える重要な仕組みが「接着複合体」です。接着複合体は、細胞の頂端部に位置し、タイトジャンクション(TJ)※1とアドヘレンスジャンクション(AJ)※2という2つの構造が並んで形成されています(図1)。
    しかし、タイトジャンクションとアドヘレンスジャンクションがどのように形成され、正確に配置されるのか、そのメカニズムは未解明でした。最近の研究で、「アファディン」というタンパク質が、この接着構造の形成において重要な役割を果たしていることが分かってきました。アファディンは接着分子と細胞骨格をつなぐタンパク質であり、細胞間接着に働く「ネクチン」や「カドヘリン」と協調し、さらに細胞骨格を作る「アクチン」とも結びついて、接着構造を安定させています。
    今回の研究では、アファディンが持つ「IDR(天然変性領域)」※3という特殊な性質に着目しました。この領域は、タンパク質が細胞内で「液滴のように集まる性質(液-液相分離)」※4を引き起こし、接着構造の形成を助ける可能性があります。この仮説を検証するために、アファディンを欠損させた培養細胞を用いて研究を進めました。
     
    図1 上皮細胞の接着複合体とアファディンとZO-1の分離過程  (左) 上皮細胞の断面図。TJ, タイトジャンクション; AJ, アドヘレンスジャンクション
    (右) 接着複合体の形成と分離の模式図。マゼンタ, ZO-1; 緑, アファディン

    研究の内容

    上皮細胞では、頂端側に細胞を取り囲む線状の接着結合(AJ)が形成され、カドヘリンやネクチン、アクチンといった接着分子が強く集積します。研究グループがアファディンを欠損させた細胞を用いてAJがつくられる様子を観察したところ、線状のAJが形成されず、細胞の側面に面状の接着構造が広がる現象を確認しました。また、接着分子や細胞骨格の集積も減少していました。
    さらに、アファディン分子を解析した結果、アファディンのIDRが線状AJへの集積を促進する主要な要因であることが判明しました(図2・動画)。IDRは接着に関わるタンパク質と弱い相互作用を繰り返すことで高密度に凝集します。この現象は液-液相分離によるものと考えられ、この凝集体形成によってアファディンが頂端部に集まり、線状AJが作られることが示されました(図3)。
    図2 アファディンIDRによる線状AJの形成(左) 正常なアファディン(白色)を発現する上皮細胞。黄色矢印で示すように、線状の細胞間接着が形成される。
    (右) IDRを欠くアファディン(白色)を発現する上皮細胞。線状の細胞間接着が失われ、薄く面状に拡がっている。
    培養後24時間。スケールバーは20マイクロメートル。
    動画はこちら
    図3 アファディンIDRは液-液相分離に働く(左) 正常なアファディン(白色)を細胞に過剰発現すると、黄色矢じりで示すように、丸い液滴様構造が出現する。
    (右) IDRを欠くアファディン(白色)を発現する細胞では、細胞内に均一に分布し、液滴様構造はつくられない。
    点線は一個の細胞の輪郭を示す。スケールバーは5マイクロメートル。
     

     
    また、アファディンのIDRがAJの頂端側への集積だけでなく、AJを構成する分子の分布を制御する役割も果たしていることが分かりました。IDRを欠損させたアファディンを細胞に発現させると、カドヘリン・カテニン複合体やアクチン繊維が十分に集積せず、AJの形態が損なわれました。一方で、アファディンのIDRを他のタンパク質(FUS)由来のIDRに置き換えた場合には、AJの頂端側への局在は回復しましたが、AJとTJの分布様式は変化しました(図4)。このことから、IDRは単に局在を制御するだけでなく、接着複合体内での分子の空間的配置にも関与していることがわかります。
    これらの結果から、アファディンのIDRは単に接着複合体の局在を制御するだけでなく、接着複合体内での分子配置にも関与していることが示されました。
     
    図4 アファディンIDRは接着複合体内の分子配置に関与するアファディンのIDRを欠損、または異なるIDRに置換すると、接着複合体内での分子の配置が変化する。

    今後の展開

    本研究では、アファディンがIDRを介した液-液相分離によって凝集体を形成し、細胞間接着の形成と接着複合体内での適切な配置を制御する仕組みが解明されました。今後の課題は、この分子・細胞レベルの現象が組織形成や機能にどのように影響するのかを明らかにすることです。
    前述したように、アファディンの機能が損なわれると、細胞間の接着複合体の位置が適切な位置に作られず、生まれてくることが出来ません。細胞間接着が適切に機能しない場合、正常な細胞の配置や組織の形態形成が損なわれ、発生において重大な欠陥が生じることになります。細胞接着は、単に細胞をつなぎとめるだけでなく、発生に必要な多くのプロセスを調整する中心的な役割を担っているためです。
    研究グループはこれまでに、聴覚や嗅覚に関わる「感覚上皮」と呼ばれる組織で、接着分子のアファディンとネクチンが組織の形成と働きに欠かせないことを明らかにしてきました。感覚上皮では、音やにおいを感じる「感覚細胞」と、それを支える「支持細胞」がモザイク状に配置されています。この規則正しい細胞の並びが崩れると、難聴などの疾患になることがわかっています。今回の研究で、アファディンがこのモザイクパターンをつくるのに重要な役割を果たしていることが示されました。
    今後、アファディンが関与する細胞接着の仕組みをさらに詳細に解析することで、細胞の正常な配置がどのように制御されているのかを解明し、細胞間接着が関与するがんの転移メカニズムの解明や、新たな治療法の開発につながる可能性があります。

    用語解説

    ※1 アドヘレンスジャンクション (AJ)

    細胞どうしを結合させる主要な接着構造。上皮細胞では頂端側で細胞を取り巻くように線状に局在し、接着複合体内でTJの下側につくられる。
    ※2 タイトジャンクション (TJ)

    細胞間のバリアとして働く接着構造で、接着複合体内ではAJの上側につくられる。
    ※3 天然変性領域 (Intrinsically Disordered Region, IDR)

    タンパク質において、特定の折りたたみ構造をとりづらい領域。一般的にタンパク質は3次元的に折りたたまれることで機能するため、生理的な機能がないと考えられてきたが、LLPSを引き起こす性質により着目されている。
    ※4 液-液相分離 (Liquid-Liquid Phase Separation, LLPS)

    均一に混ざった状態から、分子が液滴のように集まり、分離する現象。タンパク質が凝集体をつくる際に見られる。

    謝辞

    本研究は、JST戦略的創造研究推進事業さきがけ(JPMJPR1946)、JSPS科研費(JP19K03634, JP20H01823, JP22K19331, JP22H04926, JP24H00188)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2148)、武田科学振興財団、井植記念会の助成を受けて実施されました。

    論文情報

    タイトル

    Multivalent Afadin Interaction Promotes IDR-Mediated Condensate Formation and Junctional Separation of Epithelial Cells
    DOI

    10.1016/j.celrep.2025.115335
    著者

    Shuhei Kuno1, Ryu Nakamura2, Tetsuhisa Otani3,4, Hideru Togashi1,4,5,*
    *Corresponding author
    1. 神戸大学大学院医学研究科 
    2. 株式会社ニコン
    3. 東京都立大学大学院理学研究科
    4. 科学技術振興機構 さきがけ 
    5. 神戸大学バイオシグナル総合研究センター
    掲載誌

    Cell Reports

    研究者


    富樫 英
  • 研究員

  • バイオシグナル総合研究センター
  • バイオシグナル総合研究センター
  • 医学研究科