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東京農工大学 研究Discovery Saga
2025年2月27日

犬とヒトを結ぶがん研究!

犬肛門嚢アポクリン腺がんオルガノイドで未来の医療を切り拓く

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  • 犬とヒトを結ぶがん研究!
    犬肛門嚢アポクリン腺がんオルガノイドで未来の医療を切り拓く

    概要

    国立大学法人東京農工大学大学院農学府共同獣医学専攻の長嶌優子氏(博士課程3年)、山本晴氏(博士課程4年)、同大学大学院農学研究院動物生命科学部門の臼井達哉准教授、佐々木一昭教授らは、肛門嚢アポクリン腺がんを罹患した犬のがん組織から三次元オルガノイドの作出に成功し、疾患モデルとしての有用性を明らかにしました。本成果は、犬の肛門嚢アポクリン腺がんの病態解明や希少がんとして知られているヒトアポクリン腺がんの研究のために活用されることが期待されます。
    本研究成果は、「Scientific Reports」(2025年2月19日付)にオンライン掲載されました。
    論文名:Establishment of an experimental model of canine apocrine gland anal sac adenocarcinoma organoid culture using a three-dimensional culture method
    URL:https://www.nature.com/articles/s41598-025-90623-x
    現状
     肛門嚢は肛門の左右にある一対の袋状の器官であり、犬の肛門嚢腺では独特の強烈な臭いのする分泌物が産生されます。犬の皮膚腫瘍のうち3 %ほどを占める肛門嚢アポクリン腺がん(AGASACA)は、悪性度が高く、局所リンパ節や脾臓、肝臓、肺、骨などに転移し犬の生命を脅かす疾患です。治療は外科手術が第一選択とされていますが、再発防止のための術後の化学療法の標準治療法(プロトコール)は確立されておらず、研究に利用可能な細胞株もほとんどありません。
     一方、ヒトのアポクリン腺は、わきの下や乳輪、外耳道、肛門周りなど全身に存在しますが、アポクリン腺由来のがんはまれながんで患者数が著しく少なく(乳がん患者の1-2 %, 外耳道腫瘍の1-4 %ほど)、適切な化学療法のプロトコールを確立するための研究や有用な実験モデルがありません。
     したがって、犬のAGASACAがヒトのアポクリン腺がん研究の自然発生モデルとなる可能性が十分に考えられますが、病態解明につながる研究はほとんど行われていません。
     近年、生体内の上皮組織構造や遺伝子発現パターンなどを培養ディッシュ(シャーレ)上で再現可能な三次元(3D)オルガノイド培養法が注目されています。東京農工大学獣医薬理学研究室ではこれまでに犬の膀胱がん、前立腺がん、肺がん、中皮腫などさまざまながん罹患犬由来の3Dオルガノイド培養モデルを開発し、獣医のがん治療におけるトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)を進めてきました。本研究では犬肛門嚢アポクリン腺がんに罹患した犬の外科手術で摘出した組織の一部を用いて、10系統のAGASACAオルガノイド株を作出し、様々な解析を行い、培養モデルとしての有用性を検証しました(図1)。
    研究体制
     東京農工大学、北里大学の研究グループの共同研究として実施されました。
    著者
     長嶌優子、山本晴、Mohamed Elbadawy、石原勇介、鶴上一誠、Amira Abugomaa、金田正弘、山脇英之2、臼井達哉、佐々木一昭
     * 1東京農工大学、2北里大学

    研究成果

     肛門嚢の切除術を受けた犬の摘出組織の一部から3D培養を行い、10頭の罹患犬全てからAGASACAオルガノイドの作成に成功しました。電子顕微鏡を用いた観察では、アポクリン腺細胞を特徴づける離出分泌像が認められました(図2)。免疫組織化学染色では、オルガノイドにおいてCK7、HER2、p53、p63、VEGFおよびKi67の陽性(遺伝子が発現することで、当該タンパク質が存在していること)が認められ、元のがん組織と類似した上皮構造やマーカー発現パターンを維持していることが示されました。また、AGASACAオルガノイドは免疫不全マウスへの移植において腫瘍形成能を示しました。さらに、AGASACAオルガノイドに抗がん剤であるカルボプラチン、ミトキサントロン、トセラニブ、ラパチニブを処置したところ、系統ごとに異なる感受性を示し、オルガノイドを用いて個体ごとの薬剤感受性が評価可能なことが明らかになりました。

    今後の展開

     本研究で作出したAGASACAオルガノイドは、AGASACAの新規治療法開発のための実験モデルや、AGASACAに罹患した犬における個々の治療方針を決めるためのツールとしての応用が大いに期待できます。犬とヒトのがんには共通項が多く、一部のがんでは実験動物であるマウスモデルよりも犬の方がより人の病態に近いといわれています。加えて、研究レベルの治療薬も人に比べて臨床試験が比較的行いやすいことから、犬の研究が人のさまざまな疾患に応用されることが増えてきました。したがって、今回の犬のAGASACAモデルも将来的に人のアポクリン腺がん研究の一助となる可能性が期待できます。

    図1. 犬肛門嚢アポクリン腺がんオルガノイドの作出と有用性の評価
    (図はSci Rep (2025), DOI: 10.1038/s41598-025-90623-xより改変)



     
    図2. 犬肛門嚢アポクリン腺がんオルガノイドの微細構造
    (図はSci Rep (2025), DOI: 10.1038/s41598-025-90623-xより改変)





    ◆研究に関する問い合わせ◆

     東京農工大学大学院農学研究院
    動物生命科学部門 准教授
    臼井 達哉(うすい たつや)
     TEL/FAX:042-367-5770
     E-mail:fu7085(ここに@をいれてください)go.tuat.ac.jp
     WEBサイト:http://vet-pharmacol.com/


    プレスリリース(PDF:536.3B)

    関連リンク

  • 東京農工大学 臼井達哉准教授研究者プロフィール
  • 東京農工大学 佐々木一昭教授研究者プロフィール
  • 東京農工大学 佐々木一昭教授・臼井達哉准教授研究室WEBサイト 
  • 臼井達哉准教授・佐々木一昭教授が所属する 東京農工大学農学部共同獣医学科